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鉄道という社会インフラを担うJR西日本と、アルミ素材を通じて人々の暮らしを支えるUACJ、業種の異なる両社は2023年以降、共創を進めており、UACJ国内4拠点へのJR西日本が開発したAIカメラ「mitococa」の導入をはじめ、現場起点のDX推進や異業種連携による新しい価値の創出に挑戦してきました。こうした共創関係を包括的なDXパートナーアライアンスとしてさらに発展させるべく、両社のトップ同士による対談が実現。人手不足やデジタル技術の発展など、取り巻く環境が日々変化する中で、いま両社 が感じていることや、描く未来像について語り合いました。本対談では、JR西日本代表取締役社長・倉坂とUACJ代表取締役 社長執行役員・田中が、現場のリアルや安全のあり方、そして事業共創の本質などについて意見を交わしました。

安全文化から始まる現場DX

—両社長とも「安全は経営の根幹」とお話しされています。改めてその想いをお聞かせください
倉坂(JRW):
21年前の福知山線列車事故を教訓に、私たちは「ヒューマンファクター」への理解がいかに大切かを痛感しました。どれだけ一生懸命取り組んでも人はミスを完全には防げず、ミスがさらなるミスを生む可能性もあります。そのため、ヒューマンファクターへの認識を深め、ハード面・仕組み面の両面で徹底的な対策を講じてきました。また「何かあったら止める」という安全文化を、現場とともに醸成してきたことも重要なポイントです。安全と安心こそが事業の根幹であり、その基盤の上に生産性や品質が積み上がるものだと考えています。

田中(UACJ):
製造現場には大がかりな装置が存在しながらも、人が介入する作業が多く残っています。挟まれや巻き込まれなど重篤なけがに繋がる災害について、私たちもハード・ソフト両面から対策を続けてきましたが、完全ということはありません。「安全はすべてに優先する」ということを社内で共有しています。つい先日も入社式で「常に安全がすべてに対して優先する」「何かあったら、心配事があったら、とにかく止める」ように伝えています。品質や生産性ももちろん大切ですが、まずは安全を第一に据えることを徹底しています。最大限の対策を施しても事故が起きることがあり、その歯止めとしてJR西日本さんとの協業に期待しています。

倉坂(JRW):
安全という観点ですと、鉄道では日々、夜間の保守作業を行っています。線路の入れ換えなど大規模な工事もありますが「ちゃんと朝までに、始発までに間に合わせる」ということがあり、もともと皆がプレッシャーを抱えながら作業しているわけです。不安全な状態で列車を走らせてもらうわけには絶対にいけません。少し始発にかかったとしても、予めお客様 に対する案内をきちんとするという前提ですが、お客様や社員・協力会社を含めた従業員の安全を守るために列車や作業を止める、場合によっては安全確保のために時間がかかることを許容するということが、やはり大切だと考えています。

十数年前、当社は日本で初めて大規模な計画運休を実施しました。結果的に台風が逸れましたが、他社が運行している中で私たちは安全のために運行を止めました。現在はこの「危険を感じたら運休を決断し、事前に社会へ説明する」取り組みが根付いてきていると実感しています。

コラム①両社が出会ったきっかけは?

田中(UACJ)「JR西日本とは、展示会がきっかけで接点ができました。2023年ごろの展示会で、JR西日本がAIカメラなどの技術を紹介しているのを見て、鉄道会社がこうした技術に取り組んでいることに驚きました」

現場の課題と共創のリアル

—現場における課題について、どのようにお考えですか

田中(UACJ):
アルミニウムの事業を取り巻く環境が変化する中で、大きな課題の一つは「人」です。現場をオペレーションする人もマネジメントする人も、製造業で人材の確保がなかなか進まない 現実があります。新しい人材が入ってこないことで、先輩たちが培ってきたスキルや安全意識の伝承が難しくなってきています。しっかりと次世代に技術や意識を受け継いでいくことが課題です。

倉坂(JRW):
コロナ禍以降、急激に人手不足が進行しました。グループ会社・協力会社も含めた各層での人材確保と技術革新への対応が求められています。人が入れ替わり、社会環境が変わる中で、どのようにノウハウを構築・維持するかが大きな課題です。暗黙知が失われていく中、ノウハウの可視化や仕組み化のために現場の実態や変化をしっかり把握し、それをDXに生かすことが求められていると感じます。

—「経営」と「現場」の間にどのようなことが起こっていると感じますか

倉坂(JRW):
会社として良かれと思い、ルールやハード面の整備を進めていますが、それが本当にお客様や社員のためになっているかが最も大切です。頭で考えた事が現場の実態に合っているかを常に意識しています。デジタル技術の発展によって、AIカメラなどでお客様や設備の異常を検知できる仕組みも進化しており、現場の意見を反映しながら導入を進めています。安全を守るための仕組みづくりは、社員の労災防止もお客様の安心も根底の発想は同じですが、適用する場面ごとにどう調整するかが重要だと思います。

田中(UACJ):
現場で災害や事故が発生した際、対策や仕組みを考えるのは経営層ですが、実際に作業するのは現場の方々です。現場で働く人が「自分たちで安全に作業するためにどういうことが大事か」を考え、腹落ちしながら対策を進めることが重要です。マネジメントと現場の間でズレが生じると、現場側から「そんなことをやっても意味がない」と感じてしまいます。話しやすく提案しやすい雰囲気を作る、すなわち心理的安全性を確保し、提案を受け止めた側も現場の声をしっかり受け止めて施策に取り入れるコミュニケーションをしっかりとっていかないといけないと思います。

倉坂(JRW):
心理的安全性は私たちにとっても重要なテーマです。誰もが意見や提案をしやすい環境づくりが求められます。同時に、過度に緩い雰囲気ではなく、活発な意見交換によって良いものを生み出せる現場が理想だと考えます。

田中(UACJ):
普段からコミュニケーションをとって、顔と性格が分かっているということが大事ですよね。

現場参画型で進める共創DX

—異業種連携の意義をどう捉えていますか
倉坂(JRW):
当社は鉄道を365日24時間運行・メンテナンスし続けています。その仕組みをどのように維持し、安全性・生産性を両立させるかを考えてきましたが、こうしたノウハウが製造現場など他業界でも役立つのではと考えるようになりました。共通の課題に取り組む上で、異業種への横展開には十分意義があると感じています。

田中(UACJ):
JR西日本さんとUACJは、業種も事業領域も一見すると大きく異なります。そのため「なぜ鉄道会社とアルミの会社が?」と思われるでしょう。しかし、違うからこそ、お互い最優先とする「安全」に対して、アプローチの仕方が異なる面もあり、その違いが時には参考となることがあります。我々は製造のことばかりを見ていて視野が狭くなりがちですが、異業種とのコラボレーションによって新たな気づきや改善点が生まれます。また、AIやDXの領域では遅れもあったため、JR西日本さんの技術紹介をいただきながら、より一層連携を深めていきたいです。

—UACJ現場でのカメラAI導入がうまくいっている要因についてどうお考えですか
倉坂(JRW):
共創においては、現場の皆さんに直接話を伺い、納得できる形で仕上げるプロセスを重視してきました。導入後も「このままでは使いにくい」といった現場の声を聞き、改善を繰り返してきたことが成功につながっていると感じます。

田中(UACJ):
私も同じ考えです。早い段階からJR西日本さんが現場と一緒に取り組んでくださったことで、うまくいったと思います。現場の声を反映しながら進めることで、「これは良いものだ」と納得し、活用してもらえる。その積み上げが信頼関係につながったのだと思います。

倉坂(JRW):
鉄道の現場でも、実際に活用しながらチューニングを重ねてきた経験があるからこそ、同じように取り組めたのだと思います。

かつてある駅で昇降ロープ式ホーム柵を試行導入した際、当初は誤検知もあり運用の難しさを感じましたが、担当者が調整を重ね、徐々に運用レベルが向上しました。現場長からは「もう少し使い続けたい」という声も出てくるほどでした。きちんと現場からプロセスを積み上げていくという経験が我々の組織の中にあったからこそ、今回の共創にもつながったと感じています。

【コラム➁】 AIを現場で育てる伴走型モデル

倉坂(JRW)「今回の協業で特徴的なのは、単にシステムを納品して終わりではないことです。一般的には、AIモデルやサーバーをセットで提供し、顧客はそれを使う、という形が多いかもしれません。しかし、UACJとの取り組みでは、現場に入り込み、データ収集、学習データセットの作成、モデル構築、評価、改善を一緒に進めています。私たちもUACJの現場の一員になったつもりで工場に入り、現場の方々と議論しています」

—今回の連携を進める中で、UACJの現場の反応はいかがですか
田中(UACJ):
現場では、従来のやり方を変えることに抵抗感があり、新しい施策ややり方が入ると、余計な仕事が増えたと感じがちです。安全確保のための提案であっても、「余計な仕事が増える」と思われるかもしれません。しかし、目的や背景を明確にし、時間をかけて現場とともに積み上げてきたことが、受け入れられてきた理由だと考えています。

—共創を継続させていくために必要なことは何でしょうか
倉坂(JRW):
人が関与する以上、仕組みを作り、その継承や教育、さらに次の改善へとつなげることが重要です。安全、品質、生産性—この三者は密接に関連しています。安全を確保しつつ、不良品を防ぎ、生産性を高めていく。この3つを統合する仕事の仕組みの改善余地について、一緒に検討し実現できれば、他分野への応用も期待できると考えます。

田中(UACJ):
「安全はすべてに優先する」という姿勢のもと、品質・生産性も一体で考えています。品質不良は歩留まり低下につながり、生産性の低下は納期遅延をもたらす。そのいずれも現場の心理的圧迫につながり、安全面にも影響します。安全・品質・生産性の一体的な取り組みを、JR西日本さんと共に進めていきたいです。

特に品質面では、例えば熱間圧延工程で生じるアルミ板表面の筋はアルミ缶製品の品質に直結します。今は人の目で判断していますが、こうした非定量的なチェックをDXで精度向上させる余地があります。生産性の観点でも課題は多いです。

倉坂(JRW):
ノウハウは人の頭の中に蓄積されがちですが、人材は常に入れ替わります。人間の目によるチェックからデジタルアシストまで、画像処理やデータ分析技術も進化していますので、さまざまな領域でお役に立てれば幸いです。

田中(UACJ):
欠陥の原理や機械の機能を理解しているか否かで、原因追及のアプローチも大きく異なります。DXを活用し、情報化することに大きな意味があります。

倉坂(JRW):
原因の異なる欠陥でも、画像やデータで分析し、製造工程にフィードバックして不良品を減らすサイクルを作りたいですね。

田中(UACJ):
生産性向上にも直結しますし、先ほどの心理的安全性にも関わります。「焦ることなく通常どおり生産することで問題が起きない」、その理想を目指したいです。

倉坂(JRW):
不良品が発生すればその分エネルギーを消費します。製造過程での社会的ロスや環境負荷低減にもつながれば、社会的価値の提供にもなりますね。

—5年、10年というロングスパンのビジョンをどう描いていますか
倉坂(JRW):
人手不足や災害の激甚化、物価高、国際情勢など、経営環境が急速に変化する今、企業は持続的な成長を実現する必要があります。経済的価値と社会的価値をバランスよく提供することが重要であり、そのすべての土台に「安全・安心」があると考えています。鉄道は今後も、お客様のニーズに合わせてデジタル活用を含めてオペレーションを高度化します。「モビリティ」「生活サービス」「インフラソリューション」という大きく三つの事業分野を育て、価値を提供し続ける会社・グループへ成長したいと考えています。

田中(UACJ):
アルミニウムの大きな特性は「リサイクルしやすい」ことです。リサイクル時のエネルギー消費は新品生産と比べて3%程度で済むため、CO2排出量削減に大いに貢献できます。長期経営計画「UACJ VISION 2030」や第4次中期経営計画でも掲げるように、アルミニウムのリサイクル拡大を通じて用途を広げ、さらにCO2排出量の削減に取り組みたいと考えています。「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会に貢献する」という企業理念のもと、社会・環境課題への対応を進めていきます。

倉坂(JRW):
当社は今年度から新しい中期経営計画を開始しています。「共創と挑戦」をコンセプトに、多様なパートナーの皆様と新たな価値創造に挑む方針です。自分たちだけでは解決困難な課題にも、さまざまな力や技術を持つパートナーとともに取り組むことで、持続可能な未来づくりに貢献していきたいと考えています。

田中(UACJ):
リサイクルは我々だけで完結できません。サプライチェーン全体やお客様と共に推進する必要があります。例えば、「新幹線to新幹線」、新幹線から新幹線へ材料を循環することも考えられますね。

【コラム➂】 AIカメラを工場に入れる意義

田中(UACJ)「工場にはもともとカメラが多くありますが、従来のカメラは『記録する』ためのものでした。何かが起きた後に確認するためのものです。しかしAIカメラは、記録するだけでなく、危険を判断し、アラートを出します。リアルタイムに見ている、危険な行動があれば周囲にも知らせる、という仕組みがあることで、現場の安全意識が高まります。」

—この共創活動をどう進化させていきたいと考えますか
倉坂(JRW):
今回ご一緒させていただき見えてきたノウハウやデジタル解析の力を活用し、現場ごとのニーズに寄り添うような基本的なパッケージを一緒に作り上げていきたいです。それを社会のさまざまな困りごとへ提供できれば、経営的にも非常に意義があると考えます。

田中(UACJ):
安全・品質・生産性を結びつけたスマート工場の実現へ向け、さまざまな課題をひも解き、それらをリンクさせて1つのパッケージとして具現化できると有益だと思います。当社は日本だけでなく、タイやアメリカにも拠点があるため、それらの工場で展開し、さらに海外にも広げていきたいと考えています。

倉坂(JRW):
タイの工場も非常に大きいと伺いました。

田中(UACJ):
1つの生産拠点としてアメリカとタイがほぼ同じぐらいの大きさの生産量です。ぜひお時間があれば、ご案内しますのでお越しください。

—最後にステークホルダーに向けたメッセージをお願いします
倉坂(JRW):
産業界の皆さまと同じ志を持ち、共に新たな価値を生み出していければと願っています。UACJさんはリサイクルを通じて環境課題に貢献されており、私たちの鉄道もCO2排出量の少ない移動手段です。そうした点で親和性が高く、今後も積極的に取り組んでいきたいと考えています。

田中(UACJ):
2030年やその先を見据え、環境課題は益々重要になってきます。アルミを通じて環境負荷低減に貢献し、サプライチェーン全体で循環型社会を実現する仕組みや社会づくりを目指します。地球環境への貢献においても、JR西日本さんと協働して積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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安全という基盤から始まった両社の共創は、現場に根差したDXモデルとして産業界と社会の価値創造をけん引していきます。これからも、現場発の課題定義から実装・評価・標準化・横展開まで、両社で伴走型体制を築き、進化させていきます。具体的な取り組みも順次発信していく予定です。

参加者

JR西日本 代表取締役社長 倉坂昇治
UACJ 代表取締役 社長執行役員 田中信二
(聞き手)JR西日本ビジネスデザイン部 JCLaaS事業部 副事業部長 武藤良樹