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日本のアルミニウム圧延の歴史

Story 05

2013 年 〜

アルミニウム総合メーカー
UACJの誕生

アルミニウム
サーキュラーエコノミーの
心臓へ

アルミニウムのリサイクル性を活かし、持続可能な社会の実現に貢献する

世界市場での競争力確保を目指し、UACJグループが誕生

2010年代初頭のアルミニウム業界は、アジアなどの成長市場へ新規参入する企業が相次ぎ、競争が激化していました。一方、国内のアルミニウム圧延品需要は、人口減少や顧客企業の海外への生産移転などにより、大きな成長は見込めないと想定されていました。「このままでは日本のアルミニウム産業に未来はない」──。この強い危機感のもと、2013年10月に古河スカイと住友軽金属工業が経営統合。アルミニウム板製品の生産能力が年100万トンを超える、世界第3位(2013年10月時点)の巨大グループ「UACJ」が誕生しました。世界でも希少なアルミニウム総合メーカーとして、UACJは板事業を管轄し、板・押出・箔・鋳鍛・加工品事業ごとに統括会社を設けることで、運営体制を確立。「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」を目指すことになりました。その実現へ向けて、2014年3月には「UACJグループの将来ビジョン」を発表、2014年12月には「将来ビジョン」に掲げた内容を具体的に各事業へ展開していくための第一次中期経営計画「Global Step Ⅰ」を策定し、諸施策を実行しました。
2018年5月には、「アルミニウムの持つ可能性を最大限に発揮し、社会と環境に貢献する」とのありたい姿のもと、第二次中期経営計画を策定しました。

「UACJグループの将来ビジョン」を発表する岡田社長(当時)

グローバルな生産体制を強化

世界的なアルミニウム需要の高まりに応えるために、タイ市場に注目しました。タイはアルミニウム需要の旺盛な自動車産業が盛んな地域です。同じく、主要な需要先である飲料缶メーカーも多くの工場を構えています。古河スカイはこれらの需要に応える大規模な供給拠点として、現UACJ(Thailand)Co., Ltd.(UATH)ラヨン製造所の建設を計画。2012年3月より、冷間圧延工程から仕上げ工程までを担う第1期ラインの建設をスタートし、2014年1月に操業を開始しました。鋳造から熱間圧までの第2期工事は、圧延中の設備部品の不具合による火災の発生など数々の試練を乗り越えて、2015年8月に完成。日本のアルミニウム圧延会社としては初となる海外での板圧延一貫生産工場、アジアトップクラスのアルミニウム圧延工場が完成し、本格稼働しました。UATHが目指したのは、ナショナルスタッフ中心で稼働させる工場です。日本流のものづくりをそのまま展開するのではなく、現地の文化や従業員の気質に合わせたものづくりを追求し、UATHならではの強みを際立たせていくことにしました。

2015年当時のUATH

世界3極のグローバル供給体制を構築

同じ頃、米国などで強化されていた自動車の排気ガス規制を背景に、燃費の向上を目的とした自動車用アルミパネル材の需要が拡大していました。この大きなニーズに応えるべく、UACJグループは欧州企業との合弁による自動車用パネル材の製造・販売会社Constellium-UACJ ABS LLC(CUA)を設立。この合弁会社への母材供給と従来から生産している缶材の効率的な生産体制の整備のため、UACJは米国子会社のTri-Arrows Aluminum Inc.(TAA)の生産拠点となるローガン工場の鋳造・熱間ラインを増強しました。このように、UATH・TAAの展開によって、UACJグループは日本・タイ・米国を中心とした「世界3極」のグローバルな供給体制の構築を目指しました。

一方、タイのUATHラヨン製造所では着実に生産量が増加し、現地従業員の習熟度の向上もあって、2017年度は10万トン超の年間生産量となりました。顧客は東南アジアだけでなく、中近東から豪州まで50社以上に拡大。缶材需要の増加が見込まれる幅広い地域に安定供給していくために積極的な投資を行い、第3期ラインの新設を開始しました。米国TAAの生産拠点のローガン工場においても、2018年に鋳造ライン、 2020年に冷間圧延機の増強を実施しました。
また、供給体制と併せて研究開発体制の集約とグローバル化が推進されました。R&Dセンターは、国内では名古屋を中心とした体制に、海外にはアメリカ・タイに拠点を設立し、成長分野での迅速で正確な技術サポートやニーズに応じた新製品や新技術の開発を、日本と連携しながら進める体制を整えました。

米国子会社のTri-Arrows Aluminum Inc.(TAA)の生産拠点のローガン工場

UATHで建設中の鋳造棟

厳しい経営環境を踏まえて、構造改革に着手

2018年に入りアルミニウム業界は、米中貿易摩擦や中国経済失速などの影響で、需要が大きく落ち込みました。UACJグループでは、当時の厳しい経営状況の中で収益性と競争力を高めていくため、2019年10月から「稼ぐ力の向上」「財務体質の改善」「経営のスピードと質の向上」を基本方針とした構造改革に着手しました。まず、アルミニウム事業への経営資源集中を図るため、銅管事業を売却。続いて、古河電気工業創業の地でもある日光製造所の閉鎖を決定しました。さらに、同年12月には意思決定の遅延など運営管理の問題を理由に、CUAとの合弁解消に踏み切りました。これらの施策を断行したことで、2019年度の決算では統合後初となるフリー・キャッシュ・フローの黒字化を実現しました。

環境意識の高まりを背景に、リサイクル材や缶材の需要が拡大

この頃、自動車産業ではEVシフトに象徴される“100年に一度”の技術革新とビジネスモデルの転換が、急速に進んでいました。UACJでは、車体の軽量化を目的としたアルミ材の需要拡大を見据え、2020年7月に福井製造所に新工場棟を建設し、大規模なパネル材製造ラインの増設を実施しました。また、SDGsの観点からも、顧客からはサステナブルな生産を目的に、リサイクル材を使用した製品開発が求められるようになり、自動車業界では2020年12月にトヨタ自動車と共同開発したリサイクルアルミ材が、水素燃料電池自動車「MIRAI」のボディパネルに採用されました。
また、北米のUACJ Automotive Whitehall Industries, inc.(UWH)を中心に自動車部品への供給体制も増強し、中国ではCITCグループ関連子会社との業務提携し、中国市場にも対応しています。

環境意識の高まりと、脱プラスチックの潮流を背景に、北米では缶材の需要が堅調に推移していました。加えて、2020年からの新型コロナウイルス感染症の影響で都市部がロックダウンされると、家庭での飲料消費が急増しました。缶材に注力してきた米国子会社のTAAは、グローバル3極体制を活かし、旺盛な需要を取り込むことに成功しました。
タイのUATHでは、2019年7月に第3期増強投資による設備が立ち上がり、生産量と販売量が大きく増加。2019年10月~12月には、四半期で初となる営業黒字を達成しました。2021年に入ると、海外での缶材需要が追い風となって販売量が大幅に増加しました。物流コストの高騰などはあったものの、旺盛な需要環境を取り込める生産・販売力の確立によって、2021年度の経常利益は黒字化し、過去最高の販売量を達成しました。

福井製造所の新自動車材仕上げライン、CALP

2030年のあるべき姿へ——長期経営ビジョンを発表

2020年2月に、UACJグループは企業理念を再定義しました。トップマネジメント層と従業員による理念対話会を重ねるなど、グループ内で企業理念の浸透と実践へ向けた取り組みが進みました。2021年には、UACJの企業理念・ビジョンを端的に表現するために、「アルミでかなえる、軽やかな世界」というコーポレートスローガンも策定しました。

2021年5月には2030年のUACJの社会への貢献を描いた長期経営ビジョン「UACJ VISION 2030」と、その実現へ向けた第3次中期経営計画を作成しました。
持続可能な社会の実現に不可欠な素材であるアルミニウムを供給する企業は、自らも持続可能な存在でなければならない──このような考えのもと、同年に「サステナビリティ基本方針」を策定しています。同時に、優先的に取り組むべき6つのマテリアリティを特定しました。そのひとつである「気候変動への対応」については、CO2排出量削減に積極的に貢献し、2050年にScope1・2におけるカーボンニュートラルの実現を目指すことを掲げました。
UACJグループではアルミニウムの環境性能を最大限に活かすため、サプライチェーン全体での環境負荷低減に取り組んでいます。TAA・UATHでのスクラップ・リサイクル炉によるスクラップ材の活用、国内での業務提携合弁会社設立合意契約、国際アルミニウムイニシアチブ「Aluminium Stewardship Initiative」(ASI)への加盟、認証取得など、サーキュラーエコノミーの心臓の役割となるべく、諸施策を進めています。

2023年10月、UACJは設立10周年を迎えました。各事業の強みを活かし、グローバルな視点で製品・ソリューションを提供してきたUACJグループ。私たちはこれからも、アルミニウムが持つ可能性を信じ、その可能性を最大限に発揮しながら、社会と環境に貢献し続けていきます。

スローガンと一体となったコーポレートロゴ

アルミ Column ❺

アルミニウムは近年、環境負荷の軽減に貢献できる素材として、社会から高く評価されています。その特長を数値で実感できる例が、アルミ缶のリサイクル率です。2022年度のアルミ缶リサイクル率は、93.9%でした。このうちCAN to CAN率(再びアルミ缶の材料として使用される割合)は70.9%となり、前年より3.9ポイント上昇しています。アルミニウムの品質を下げることなく、再びアルミ缶にできるので、半永久的にリサイクルし続けることが可能なのです。

「産業の成立と、民間への普及」を読む