社外取締役対談

持続的成長と企業価値向上を目指し
コーポレート・ガバナンス改革とアルミニウム事業の高付加価値化を追求

持続的成長と企業価値向上を目指し
コーポレート・ガバナンス改革とアルミニウム事業の高付加価値化を追求

(左)池田 隆洋 取締役(社外、非常勤)
三菱化学(株)執行役員、ダイアケミカル(株)取締役社長、三菱レイヨン(株)取締役兼常務執行役員などを歴任。また三菱レイヨンでは、インドネシアなどで事業展開に従事するなど、アジア・ASEAN地域の事業環境に精通。※現 三菱ケミカル(株)
(右)作宮 明夫 取締役(社外、非常勤)
元オムロン(株)取締役副社長。社長指名諮問委員会などの各種諮問委員会で副委員長を務めるなど、非執行の取締役として経営のモニタリングに注力。またROICを指標とした経営で同社の企業価値向上に貢献。

社内とは異なる多様な視点から経営やガバナンス強化をサポート

──
社外取締役に就任し、UACJという会社に対してどんな印象を抱かれましたか。
池田
皆さんとても真面目で誠実という印象を受けました。取締役会に関する事前資料などを見ても大変よく整理されています。それから、製造所を何カ所か視察したのですが、メーカーだけあって製造現場が活気に満ちていて、強いインパクトを感じました。
作宮
私も同じく非常に真面目な会社というのが第一印象でした。何か問題が生じたら、全員が前向きに粘り強く解決に取り組んでいくイメージがあります。ただ、皆真面目なだけに、どこか大人しいというか、枠からはみ出すような奔放な感じはあまりありませんね。
──
社外取締役としてどのような役割を期待されているとお考えですか?
池田
私は、長年、化学系の素材メーカーで海外事業の立ち上げや国内外の法人運営などに携わってきました。退任後3年近く経ちますが、この間いろいろな会社のお手伝いをするなかで、ビジネスの第一線にいた頃以上に多くの異業種の方々と関わる機会があり、知らなかったことを学んだり、新しい価値観に触れたりすることができました。こういった経験を活かして、社内の人間とは異なる視点からUACJの経営を監督し、サポートしていく役割を期待されていると思います。
作宮
私が2017年6月まで取締役副社長を務めていたオムロン株式会社は、1999年に執行役員制度を導入し、2003年には人事諮問委員会や指名・報酬諮問委員会を発足させるなど、わが国におけるコーポレート・ガバナンスの先進企業として評価されています。その中で、私自身も2011年から6年間、非執行の取締役として経営のモニタリングに専念するなど、同社の一層のガバナンス強化に力を注いできました。この経験を活かし、UACJのコーポレート・ガバナンス改革をお手伝いしていくことが、社外取締役としての役割の一つだと考えています。

より実効性の高いガバナンス制度の運用やROIC経営手法の効果的な導入・活用を支援

──
これまでの経験やノウハウをUACJの経営にどのように還元できそうですか?
池田
素材メーカーのビジネスは、トライ&エラーの傾向が強く、一つの成功事例の背後では数多くの失敗を繰り返しているケースがほとんどです。失敗した場合、その原因を分析するのですが、社内であれこれ議論するだけでは、うまく問題点を探り当てられないことも少なくありませんでした。
作宮
同じ会社で仕事していると、どうしても皆の思考回路が似てきますからね。
池田
はい。けれど、海外勤務や異業種交流などで、多様な文化・価値観に触れてみると、それまで気づかなかったことがいろいろと見えてくるものなのです。UACJの場合もアルミニウムという単一の素材を扱っている会社ということもあり、社内では感じなくても、外部から見れば、どこかモノカルチャー化している側面があるはずです。それだけに、社外取締役として社内だけでは見落としがちな課題を指摘するなどして、UACJの企業価値向上に貢献できればと思います。
作宮
私は、やはりコーポレート・ガバナンス改革を中心にサポートしていきたいと思います。たとえば、UACJもすでに経営の執行機能と監督機能を切り離したオペレーションへと移行していますが、まだ体制の整備が終わった段階であり、いかに実効性の高い制度運用を実現していくかはこれからの課題です。こうした制度運用における最適解を追求していくプロセスなどに、自分の経験を活かせるのではないかと考えています。
池田
オムロンは、当社が今年度から本格的に導入しているROIC経営について早くから取り組んでこられましたよね。
作宮
はい、オムロンではROICを経営管理の基本ツールとして導入・活用してきました。ROIC経営のメリットは、ビジネスモデルの異なるさまざまな事業の“稼ぐ力”を共通の指標で評価できることにあります。また、「ROICの逆ツリー展開」といって、ROICを構成する要素を勘定科目レベルまで分解し、各事業現場にROICを上げるための具体的な目標を提示することができます。さらに、ROIC経営は、事業の選択と集中を進め、事業のポートフォリオ経営を推進することでもあり、採算性が低い事業からは撤退し、収益力のある事業に経営資源をシフトさせる決断が欠かせません。こうしたROICの全社展開や事業の選択と集中なども含め、いろいろサポートしていければと考えています。
──
池田さんは、中国や東南アジアでの事業経験が豊富ですが、UACJのグローバル事業に対して何かアドバイスはありますか?
池田
UACJは、近年、タイと北米を中心に非常に巨額の投資を実施しましたね。その中でもタイなどのアジア新興国では、現在、凄まじいスピードで社会が変化しており、日本国内とは時間の流れる感覚が違うといっても過言ではありません。それだけに日本国内の感覚でオペレーションしようとすると、現地との意識のギャップがどんどん広がってしまいます。海外事業のマネジメントで重要なのは、ヘッドクォーターが海外の実情に配慮して、現地を孤立させないことです。とくにUACJの場合、これだけ大規模な投資をしたのですから、それぞれアジア事業、北米事業ではなく、いずれも全社事業であり最大の経営課題という覚悟を持って取り組まなければ成功は望めないと思います。

取締役会のモニタリング機能を強化し、より透明性・健全性の高い経営を追求

──
UACJのコーポレート・ガバナンスについてのご意見をお聞かせください。
池田
事業戦略の方向づけや財務の健全性に関わるような重要議案の議論をさらに充実させるためにも、経営執行会議などに決定を委ねられる議案についてはもっと権限移譲しても良いのではないでしょうか。
作宮
私も同意見です。取締役会には、マネジメント機能とモニタリング機能があるのですが、現在のコーポレート・ガバナンス改革においてより重要視されているのはモニタリング機能の強化です。それだけにUACJとしても、今後、マネジメントとモニタリングの違いを明確に意識しながら、よりモニタリング機能を重視した取締役会へと変革していかなければなりません。そのためには、十分な議論ができるアジェンダ数にしていくとともに、将来的には取締役会の出席メンバーもモニタリングに適した構成にしていく必要があると思います。
池田
執行責任を持つ人が取締役会で発言する場合、どうしてもその事業を守ろうという視点になりがちです。取締役会は全体最適の視点で議論する場所であり、とくに業務執行をモニタリングする議案などに関しては、より客観的に議論できるように、執行兼任と非執行のメンバーの比率を調整するなどの工夫が必要になるのではないでしょうか。
作宮
当社では、社外取締役への情報提供も非常に充実しており、業務内容や経営状況をよく理解できます。ただ、株主の代弁者として経営をモニタリングするという社外取締役の役割を考えると、あまり業務の細かい部分までは踏み込まず、広い視野で判断していく必要があります。私たちもマネジメントを経験しているだけに、マネジメントの中に深く入り込んでしまうと、現場の意見に引っ張られてしまう恐れがありますからね。
池田
課題は多いですが、新生UACJのスタート元年である今年度はコーポレート・ガバナンス改革を大きく加速させる絶好のチャンスです。取締役会メンバー、執行部でどんどん意見を出し合って、より透明性・健全性の高いガバナンスの仕組みを作り上げていきたいと思います。
──
お二人は昨年10月に発足した「指名・報酬諮問委員会」の委員でもあります。同委員会の活動に関して、ご意見やご要望などあればお聞かせください。
池田
委員会では、今後、次の経営幹部を選任するための具体的なプロセスに入っていくわけですが、優れた経営幹部を選出するためには、その前提として社員の中から優秀な幹部候補を育成・選抜していくシステムが必要になります。その点、UACJの現状はどうなのか、十分なレベルでなければどのような仕組みにすべきかなどについても委員会で議論していきたいと考えています。
作宮
経営トップのサクセッションプラン(後継者育成計画)を作成するには、その候補となる経営幹部を育成するプロセスが欠かせませんし、そのためには池田さんがおっしゃるように中堅クラスの育成プランも必要になります。それを考えると、10年くらい先を見据えながら、人事制度全体のあり方も含め議論していくべきではないでしょうか。
池田
人事評価や目標設定などの仕組みについても、これまでのやり方を踏襲するだけではなく、最新のIoTやAIなどを活用して、より公平性、納得性の高い仕組みにするなど、時代にマッチしたシステムを構築していけたらと思います。
作宮
一方、取締役の報酬体系については、今回の見直しで中長期的な業績向上に連動する仕組みを加えるなど、コーポレート・ガバナンス・コードを遵守する内容となっています。ただし、まだ報酬制度としての形が出来上がった段階ですので、今後どのように運用され、実際に業績向上へのインセンティブが効いているかなど、委員会で適切にモニタリングしていきたいと考えています。

多様性の高いカルチャー形成とビジネスの高付加価値化が課題

──
最後にUACJの今後の課題についてご意見をお聞かせください。
池田
UACJが、これからグローバル市場で持続的に成長し、企業価値の向上を実現していくためには、やはり組織や企業カルチャーの多様性を高めていくことが大切です。たんに真面目で優秀な人間を100人揃えた組織よりも、その中に異質な人間が1人、2人いる方が組織は活性化します。多様性やダイバーシティは時にコンフリクト(衝突・対立)を起こしますが、それをプラスの力に変えることで改革やイノベーションが生まれるのだと思います。ですから今後、多様な属性、経歴の人材活用を促進すると同時に、人材育成においても「出る杭を打つ」のではなく「出る杭を育てる」発想が必要だと思います。
作宮
UACJが投資家にとってより魅力ある企業になるためには、技術力、開発力にさらに磨きをかけて、ボリューム競争ではなく、製品やサービスの高付加価値化によって競争を勝ち抜いていくことが大切だと思います。そのためには、新製品の開発だけでなく、生産プロセスやビジネスモデルの革新なども含めて、あらゆる可能性を追求していく必要があります。ビジネスの付加価値を高め、収益性を向上させていかなければ、やがてアルミニウム業界自体が投資対象として魅力のない存在になってしまう――そんな危機感を持って取り組んでほしいと思います。