投資家との対話

積極的な成長投資を結実させ
真のグローバルプレイヤーへ

積極的な成長投資を結実させ
真のグローバルプレイヤーへ

(左)中野 隆喜 代表取締役 兼 専務執行役員 海外事業戦略部、広報IR部担当 Tri-Arrows Aluminum Holding Inc. 取締役社長
(右)五老 晴信 モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 マネージング ディレクター (2018年6月当時)

2018年度を起点とする新たな3カ年中期経営計画のもと、UACJは積極的な成長戦略を推進しています。
そのような当社を資本市場はどのように評価し、またどんな期待を寄せているのでしょうか。
投資家を代表してモルガン・スタンレーMUFG証券の五老晴信様をお招きし、当社の中野隆喜専務と語り合っていただきました。

成長市場・成長分野への注力を継続するとともに
先行投資の着実な回収と財務効率の向上を図る

──
2018年度から2020年度までの新中期経営計画が発表されました。前中期経営計画に関する評価と新中期経営計画に対する期待や要望などをお聞かせください。
中野
まず、計画の前提となるアルミニウム産業の事業環境ですが、当社にとってワクワクと胸躍るような状況に向かっていると思います。一つは、東南アジアをはじめとする新興国地域の経済発展にともなうアルミニウム需要の増大です。そしてもう一つは、世界的な環境規制の強化を背景に、自動車の軽量化という100年に1度ともいえる大きな変化が起こっていることです。こうした市場変化への対応を加速するために、前中期経営計画期間では、タイのラヨン製造所の第3期投資や、米国のTAAの新生産ラインへの投資、現UWHの買収など、積極的な先行投資・投融資を実行しました。
五老
成長市場(アジア・北米)、成長分野(自動車)に重点的に投資する戦略は、時機を得た正しい判断であると思いますが、最終的に利益目標は未達となりました。既存事業の強化は順調に進んでいるようですが、新規事業への投資拡大が重石になっているのではないですか?
中野
戦略を実行していく過程で、当初想定していなかったいろいろな問題に直面しました。その一つに新規事業の立ち上げの遅れがあります。さらに東アジア市場全般におけるアルミニウム製品のロールマージンの低迷、エネルギー価格や為替の問題もありました。その意味で、前中期経営計画は、戦略として間違いはないのですが、それを実行に移す段階においては改善、修正すべき点があったと反省しています。
五老
そのような認識のもとに、新中期経営計画では、引き続き「成長市場・成長分野に注力する」だけでなく、新たに「先行投資の着実な回収」と「資本効率の向上(ROIC重視)」という重点方針を掲げていますね。
中野
はい。事業戦略自体を修正する必要はないと考えており、今後も競争力を維持・向上しながら利益率を高めていきます。ただし、戦略を具体的な投融資計画に落とし込んで実行していく段階では、リスク管理・進捗管理を徹底して先行投資を着実に回収していくべきと考えています。
五老
新しいタイムスケジュールでは、すでに決定している主な設備投資・投融資は概ね2019年度で完了し、2021年度以降を本格的な利益拡大期と位置づけています。
中野
そこで、これからの3年間は、本格的な事業成長に向けてエネルギーを蓄積する期間として準備を進めていきます。それからもう一つ、財務体質の健全性を管理していくための指標としてROICを重視し、グループ全体で資本効率の向上を図っていく方針です。
五老
今回の計画では、「2020年度のフリー・キャッシュ・フロー黒字化」「2022年度のROIC 8%以上」という目標を掲げていますが、その実現のためには、当然「事業の選択と集中」と「事業ポートフォリオ管理」を徹底していく必要があります。
中野
ROICで一定の基準を満たさない場合、たとえ利益を出している事業でも見直しの対象となる可能性はあります。ただし、市場環境の変化のスピードに的確に対応していくためには、能力増強などへの投資を加速させなければならないケースも出てくるかもしれません。
五老
そうすると、今後、財務規律を優先させるか、事業戦略を優先させるかという決断を迫られることもありそうですね。
中野
はい。そういった意味でも、今回の計画をどのように実行していくかが、今後、資本マーケットが当社の本当の実力を見極めるための重要な試金石になると覚悟しています。

新しい中期経営計画を
いかに着実に実行していくか、
それが真の実力を測る試金石になる
中野専務

さまざまな投資家との直接対話の機会を増やし
事業や戦略進捗に対する信頼感を醸成する

──
UACJのコーポレート・ガバナンスに対する評価やご意見をお聞かせください。
五老
この数年、国内外の多くの企業がガバナンスの強化を加速させてきたなかで、金属業界のガバナンスへの取り組みはやや出遅れている印象があります。そのなかでもUACJは、社外取締役を増員するなど、毎年、着実に体制整備を進めてきました。今後は、継続的な体制強化に加えて、ガバナンスが期待通りに機能しているかどうかをモニタリングし、実効性を高めていくプロセスが重要になると思います。
中野
最近では、ESG投資に代表されるように、資本マーケットが投資先を選別する際の判断基準の一つとして、企業のガバナンスへの取り組みが重視されるようになりました。これから当社が真のグローバルプレイヤーとして世界で戦っていくためには、ガバナンス面でも世界で胸を張れるレベルに高めていかなければならないと考えています。
五老
企業がガバナンスをレベルアップしていくためには、積極的な「投資家との対話」が欠かせません。投資家、資本マーケットが企業に何を期待し、何に懸念を抱いているのかを正しく汲み上げ、問題意識を共有する双方向のコミュニケーションが重要になると思います。
中野
より多くの機関投資家の方々と、1対1形式も含めた対話の機会を増やしていく予定です。さらに、個人投資家の方々を対象にした説明会も今年から1コマ増やすことにしました。また、投資家の皆さんに工場を見学していただく機会も積極的に設けていこうと考えています。
五老
製造業の事業を理解するには、実際に現場・現物を見るのが一番です。現場で同業他社に対する技術的な優位性や、新しい設備の導入効果などをしっかり説明すれば、戦略の進捗状況に対する信頼感や安心感にもつながるはずです。

生産現場の革新と品種構成の高度化を推進し
アルミニウムのソリューション・プロバイダーへ

──
最後に、UACJの将来あるべき姿についてご意見をお聞かせください。
五老
UACJが新中期経営計画で掲げた将来ビジョンを実現していくには、まず中期経営計画の重点方針を着実に実行していかなければなりません。特に利益目標の達成には、収益力を高めていく必要があると思いますが、どのような施策をお考えですか?
中野
生産ラインの技術革新を促進し、さらなる生産性向上、品質向上を追求していく方針です。AIやIoTなどの最新技術を有効活用することによって、生産現場における人的ミスを撲滅したり、これまで実現できなかった高品質の製品、差別化された製品を量産できる可能性があります。
五老
需要拡大に対応して製造業が設備投資するのは当然であり、投資家が本当に関心を抱いているのは、それが単純な増産投資なのか、あるいは生産を高度化・効率化させて収益性向上に貢献する投資なのかにあります。今後、UACJが後者の投資に積極的に取り組む方針であれば、それは資本マーケットへの強いメッセージとなるはずです。
中野
その先にあるUACJのありたい姿が、単に「素材」を売るメーカーではなく、アルミニウムという素材でお客様の課題解決に貢献する「機能」を提供するソリューション・プロバイダーです。
五老
素材だけでなく「機能を提供する」という事業ビジョンは非常に魅力的であり、きちんとアピールしていけば多くの投資家の共感を得られると思います。その目標の実現に向けて、どのような施策を打っていくのですか?
中野
生産革新やソリューションビジネスの戦略を研究する専門チームを設置し、今後、具体的な実行プランを策定していきたいと考えています。もちろん、研究開発体制の強化・拡充も欠かせません。現在、研究開発のスピードアップと地域的な拡大を図っており、米国に研究開発部隊を常駐させたほか、タイの大学との共同研究などに取り組んでいます。
五老
そのような5年、10年先を見据えたビジョンを具現化していくためにも、重点施策の進捗管理をしっかりと行い、戦略実行と利益目標の達成をうまくバランスさせていくことが大切です。何か問題が生じた場合に的確なアクションを起こせるか──マーケットはそうした対応力、計画遂行力に期待と懸念を抱きながら、いろいろな会社の事業戦略を注視しているはずです。
中野
状況は常に変化します。その変化をいち早く見極め、戦略自体は変える必要がなくても、目標を達成するための手段は柔軟に講じていかなければなりません。つまりプランBを用意しておくことが大切なのだと思います。
五老
もう一つ、マーケットがUACJに強く期待しているのが技術面です。自動車用パネルなどの成長市場では競争も激しくなりますから、成長機会を十分に活かすには、これからも技術のトップランナーであり続けることが重要になります。
中野
技術的優位性を維持していくためには、一定以上の事業規模が不可欠です。2013年10月の経営統合によってUACJが発足した時点で、グローバル競争のステージに参加するための必要なスケールを確保できたと考えています。ただし、そのステージでどのようなポジションを確保できるかは、これから技術開発をはじめとする重要な戦略をいかに実行していくかで決まります。
五老
資本マーケットも、その戦略の実行力という部分に最も注目していますし、また大きな期待を寄せています。ぜひ実行力を高め、目標を達成していただきたいと思います。

資本マーケットも
その戦略実行力に最も注目し、
大きな期待を寄せている
五老 晴信