特集

海外市場での
販路拡⼤に向けて

完遂した世界3極体制で変わる営業の現場

成長戦略の一つとして、海外への販路拡大を掲げるUACJグループ。その布石として海外主要拠点の生産能力を増強し、日本、米国、タイの3極にそれぞれ30万トン以上の年間生産能力を持つグローバル供給体制を完成させました。ここでは、世界3極体制を活かして世界市場に乗り出す缶材営業の最前線を、海外営業統括部長の後藤健介から紹介します。

海外営業統括部⻑
後藤健介

入社後、営業として幅広い製品を担当。2014年からUATHに配属となり、自動車熱交換器材の営業を経て、グローバルメーカーへの缶材の営業に。2020年から(株)UACJにて、グローバル営業の戦略立案を担う海外営業統括部長に就任。

UATHの生産力向上を機に
未展開エリアに進出

これまでUACJグループでは、日本の拠点は日本市場、米国のTAA※1 は米国市場、タイのUATH※2はタイをはじめとする東南アジア市場に缶材を供給してきました。というのも、日本は特有の仕様もあるなかで国内のお客様への安定供給に注力する必要があります。また、米国は世界一の缶消費国であり需要も伸長していることから、TAAはこの旺盛な需要に対応する必要があります。そして、タイのUATHは20万トンに満たない年間生産能力であったため、タイ国内と近隣国へ供給していました。このように、世界に生産拠点を持ちながらも、実態としては営業展開国が限られていたのです。

2019年、UATHでは第3期投資による増産工事が完了し、年間生産能力32万トンになりました。それとともに、現地オペレーターの習熟度が高まったことで、生産量も倍増し、月産2万トンを超えました。UATHの生産力が高まれば供給先を広げられるようになります。そこで、UATHは市場拡大が続くアフリカや中東も供給対象としました。供給地域の拡大は、売上の増加だけでなくリスク分散にもつながります。今後は、同じく需要増が続く南米にも営業を展開していきます。

また、UATHでは貿易協定や関税、貿易摩擦などの世界情勢を踏まえ、機動的に営業先を選定・開拓しています。例えば、米中貿易摩擦により中国企業の製品が米国に入らなくなったことを受けて、TAAだけでは賄いきれない米国の需要を獲得しています。韓国に対しても、関税を踏まえて日本の拠点からではなくUATHから供給するようにしました。当社グループは今後も、世界地図を俯瞰した営業活動を展開していきます。

  • ※1 Tri-Arrows Aluminum Inc.
  • ※2 UACJ (Thailand) Co., Ltd.

世界各地への供給開始を機に
グローバルメーカーとの取引を拡大

UATHの生産力が向上し、品質を含めて世界中のお客様にアプローチできるようになったことで、UACJグループの缶材営業は次のステージに進みました。それは、グローバルな飲料メーカーや製缶メーカーとの取引です。グローバルメーカーからは、大量の缶材を世界各地に、数年にわたる契約期間で、安定した品質と高いコスト競争力で供給することが求められます。これらをクリアしなければ取引先候補としては認めてもらえません。世界への供給力を持つUATHに加え、増産工事を終えて年間生産能力が45万トンとなった米国TAA、そして30万トンクラスの日本の拠点によるバックアップを含めて、安定した供給体制が完成したことによってグローバルメーカーとの取引が可能になったのです。

また、これまでは3極の各拠点がほぼ現地供給にとどまっていたため、それぞれ別の企業と見られていました。しかし、3極の担当者が揃って営業先に赴き、グローバル供給体制をアピールしてきたことで、最近ではお客様から「UACJグループもグローバル企業になってきましたね」というお声をいただくなど、一つのグループとして認識されるようになってきました。このように当社グループの見られ方が変わったことも重要なポイントだと思います。

もちろん、グローバル供給体制があるだけで契約を勝ち取れるわけではありません。商談を成功に導くには、各国の商習慣や国民性を踏まえたうえで、お客様の考え方や意思決定に対するスピード感などを理解する必要があります。私は、UATHのグローバル営業チームにいる時にこのことを実感しました。当時は米国人の上席者と営業活動を行っていたのですが、例えば見積提示を求められた際、日本人の感覚では一度持ち帰って上司に相談するなど、少々時間がかかる場合があります。しかし、彼はその場である程度の回答をしていました。彼には権限が与えられていたこともありますが、そうしたスピード感のある現場判断が商談成功やお客様満足につながるということを感覚的に理解していたからでしょう。当社グループが今後、グローバルメーカーとの取引を拡大させるためには、こうしたグローバルなビジネス感覚を持ち合わせた人材の育成が必要不可欠です。

グローバルメーカーとの取引拡大に向けて、
真のグローバル企業への転換が必要

Bud PatelUACJ (Thailand) Co., Ltd.
General Manager Global Business Sales & Marketing Dept.

UACJグループが、グローバルメーカーと対等なビジネスパートナーとなり、より大きな市場を獲得していくにあたっては、市場動向や競合他社の情報はもちろん、お客様ニーズをタイムリーに把握しなければなりません。そのためには、グローバルメーカーに直接販売する体制の構築、良好な関係性を築くことができる営業担当者の長期的な視野での育成が必要です。そのためには、これまでの数年単位のジョブローテーション制度なども見直すことが必要かもしれません。こうしたことを含めて、世界で事業展開する日本の企業ではなく真のグローバル企業へと転換できれば、UACJグループは、成長を続ける世界の缶材市場において強力なプレゼンスを発揮できると思います。

グローバルメーカーとの取引を機に
次なるニーズを開拓

グローバルメーカーの主たるニーズは、世界各地への安定供給とコスト競争力です。一方、最終消費者との接点が多い彼らは顕在化・潜在化を問わず多種多様なニーズを抱えています。UACJグループが成長していくためには、人口増や新興国の経済成長にともなう自然増の需要を獲得するだけでは足りません。潜在ニーズも含めて幅広く対応できる体制を整える必要があります。

そこで当社グループは、日本以外にも米国とタイに研究開発拠点を立ち上げました。これによって、お客様からの要望や課題を日本に持ち帰らず各地で調査できるようになり、回答へのリードタイムを短縮できます。加えて、現地の言語で時差なくコミュニケーションを取れるため、要望もよりきめ細かく把握することが可能になります。さらに今後、海外の研究開発拠点を積極的に活用し、潜在ニーズに応えて製品化していくことで、売上増やお客様満足度の向上を図っていきます。

また、お客様ニーズのなかでも、特に高まっているのが環境問題への対応です。お客様と話していても、これまでリサイクル材の使用率やその目標などを気にされることは少なかったのですが、ここ1、2年で尋ねられるようになりました。今ではほぼすべてのお客様が話題にされます。そして、もう一つ質問を受けるようになったのが、「ASI※3に加盟しているか、加盟する予定があるか」ということです。ASIは、世界のアルミニウム生産者、加工メーカー、エンドユーザーなどがサプライチェーン全体でサステナビリティの取り組みを強化し、社会貢献を最大化することを目的とした国際機関です。こうした状況を踏まえ、当社は日本のアルミニウム圧延メーカーとして初めてASIに加盟しました。サステナビリティへの取り組みは、著名なブランドを持つ飲料メーカーだけでなく製缶メーカーからも強く求められるようになっています。営業現場に長年携わってきた私の感触として、近い将来、サステナビリティはキー・バイイングファクターになると見込んでいます

例えば、最近クローズアップされている環境問題として、ペットボトルやレジ袋などのプラスチックごみが海に流れ込み、海の生態系に甚大な影響を与えている「海洋プラスチック問題」があります。これを受けて、容器包装のプラスチックを減らそうという動きが進んでいます。現時点では需要動向に変化を及ぼすほどの影響はないものの、米国のドリンクパッケージ会社は、球場やアウトドアで使用されるアルミニウムカップを製作し、プラスチックカップからの転換を提案し始めています。当社グループも、来訪いただいたお客様に提供する飲料水の容器をアルミニウム缶に変更しました。世界の飲料で最大のマーケットはミネラルウォーターですが、その容器の1%でもアルミニウム缶になれば大きな市場が生まれるはずです。UACJグループがグローバル市場での存在価値を発揮していくためにも、お客様や社会の要請・変化を敏感に察知しながら、新たな市場形成に取り組んでいきます

  • ※3 Aluminium Stewardship Initiative

来訪のお客様に提供するアルミニウム缶入り飲料水