トップメッセージ

新・企業理念の実現に向けて
構造改革の早期完遂を果たすとともに
中長期的な成長戦略を推進していきます

代表取締役社長 石原 美幸

このたび、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患された皆様、感染拡大により困難な生活環境を余儀なくされている多くの皆様に、心よりお見舞い申し上げます。同時に、最前線で日夜対応に当たられている医療従事者、保健機関の皆様、そして社会インフラを支えておられる皆様に、深く感謝申し上げます。UACJグループは、この困難な状況をグループ一丸となって乗り越え、すべてのステークホルダーの皆様への責任を果たしてまいります。

中長期的な成長投資を推進するも、市場環境激変の影響を受け2期連続の計画未達に

UACJは、日本を代表するアルミニウムメーカー2社が、長期的な戦略のもとに経営統合して誕生した会社です。そのねらいは、今後の国内市場の収縮を見据え、統合によるシナジーを最大限に発揮しつつ、中長期的な伸長が予想される北米やアジアを中心とする海外市場の旺盛な需要に応えていくことにより、グローバルメーカーとして持続的な成長を果たすことです。そのために当社では統合後、北米のTAA※1や東南アジアのUATH※2への大規模な投資を実施し、日本を含む世界3極のグローバル供給体制を構築してきました。

こうした成長投資を実行できたのは、今後も当面は国内市場で十分収益を確保できる見込みがあったからです。実際、計画策定後も国内ではちょうどボトル缶の登場により、コーヒー飲料などのアルミニウム缶の需要が伸びました。自動車の軽量化ニーズに対応してボディパネルのアルミニウム化の動きが活発化していました。また、米国におけるシェールガスの輸出拡大にともないLNGタンク材の需要が増大し、液晶・半導体製造装置向けの厚板の需要も堅調でした。

いずれは収縮していくと考えていた国内市場ですが、当時、足元の需要は伸びていました。そのため、前中期経営計画(2015~2017年度)において着手する計画だった国内製造拠点の集約を遅らせることとし、現中期経営計画(2018~2020年度)においても、国内需要の伸びを踏まえた計画を策定し、さらに旺盛な海外需要の獲得に向けてTAAやUATHにおける増強投資を進めたのです。

ところが、2018年の後半から中国経済の減速、米中貿易摩擦などの影響で、国内外の市場環境が激変しました。大型投資を進めてきた海外生産拠点がまだ収益化できていない段階で、国内需要が厚板を中心に大きく失速しました。その結果、当社は2期連続で経営計画の目標を達成できませんでした。とりわけ2019年度は、売上高6,151億円、営業利益101億円、経常利益38億円という減収減益の大変厳しい業績となりました。なお、親会社株主に帰属する当期純利益は、繰延税金資産の計上などによって増益となっています。

  • ※1 Tri-Arrows Aluminum Inc.
  • ※2 UACJ (Thailand) Co., Ltd.

戦略の変遷

戦略の変遷

3つの方針に基づく構造改革を実行し、筋肉質な企業体質へ

この困難な状況から脱却すべく、UACJは2019年10月から「構造改革の実行」を開始しました。アルミニウム業界のなかでは比較的早く改革に着手することができました。しかし、統合直後から危機感を持って国内生産体制の見直しを計画してきたにもかかわらず、環境変化への対応が遅れ、業績悪化を招いてからの改革着手となってしまったことは深く反省しています。

今回の構造改革では、事業環境変化に対応できない現状の「収益構造」や「財務体質の脆弱化」、そして決断の遅れや実行力不足などの「マネジメント機能の不足」といった課題を真摯に受け止め、「稼ぐ力の向上」「財務体質の改善」「経営のスピードと質の向上」の3つの方針のもと、筋肉質な企業体への変革を図ります。

改革がスタートして約1年が経過し、各施策は着実に進捗しています。「稼ぐ力の向上」では、実施を延ばしていた国内の生産拠点の集約が計画通りに進んでいます。海外拠点においても第3期投資設備が本格稼働したUATHの生産・販売量が拡大しており、お客様との長期契約・価格改定契約の締結も順調に進んでいます。TAAの新冷間圧延ラインの立ち上げは、新型コロナウイルス感染症の影響もあってやや遅れたものの、販売への影響はなく、順次増産していきます。

「財務体質の改善」については、祖業の一つであった伸銅品事業の売却をはじめとするアルミニウム事業への集中と不採算部門・ノンコア部門からの撤退や、当社グループ全社員が強い危機意識を持ってコスト削減に取り組んだ結果、2019年度には、経営統合後初となるフリー・キャッシュ・フローの黒字化を実現しました。

さらに「経営のスピードと質の向上」に関しても、執行役員を27名から14名に削減したのをはじめ、執行兼任の社内取締役も削減するなど、経営と執行との分離、責任・権限の明確化を図るとともに、より迅速な意思決定ができる体制を整備しました。

このように構造改革は順調に進展していますが、この改革は当社が早期の業績回復を実現し、新たな成長軌道へと歩を進めるために当然完遂しなければならないプロセスに過ぎません。本来なら現中期経営計画のもとに成長戦略を推進しているはずの時期に、構造改革に注力せざるを得なくなったことで、成長に向けた施策が後回しになっています。その現実を正しく認識し、目先だけの改善で終わらせることなく、将来の成長を支える強靭で筋肉質の企業体を作り上げなければならないと考えています。

構造改革の方針と目標

構造改革の方針と目標

再定義したグループ理念を起点に新たな成長機会を獲得

2019年度は、この構造改革と同時にグループ理念の再定義に取り組みました。これはUACJグループの意思表明であり、私たちが目指す将来像とその道筋を示したものです。また、UACJのパーパス(存在意義)を再認識し、全社員で想いを一つにすることは、構造改革を進めるうえでも大きな推進力になるはずです。そのため今回の再定義は、若手から経営陣まで400名近い社員の意見を集めるなど、全員の意志・想いの総和として新しい「企業理念」「目指す姿」「価値観」をまとめました。

再定義した理念体系を改めて俯瞰してみますと、これまで注力してきた先行投資などの施策は、いずれもこうした理念の実践であったことがわかります。TAAやUATHへの設備投資は、環境負荷の低減に寄与するアルミニウムという素材を世界のユーザーにお届けし、持続可能で豊かな社会の実現に貢献するという企業理念の実践といえます。また、UWH※3の買収による自動車部品分野でのソリューション事業の強化、タイや米国での研究開発拠点の開設は、アルミニウムという素材の可能性を最大限に引き出し、より幅広い分野で環境負荷低減に寄与していくための施策です。

そして今後も当社グループは、この理念を起点にして、新たな成長機会を創出していきます。現在、コロナ禍において厳しい事業環境が続く産業がある一方、ITサービスやヘルスケアのように加速度的に成長している産業領域があります。これらの領域においても、例えばクラウドサーバー向けの磁気ディスク、基板やIT関連部品材、医療機器向けの放熱部材など、さまざまなアルミニウム需要が存在します。そんな成長機会を確実に捉えてビジネスを拡大させていきたいと考えています。

こうした成長機会を創出していくうえで念頭に置かなければならないのが「UACJは何によって社会に価値を提供していく会社なのか」ということです。アルミニウムなどの素材メーカーは、お客様に素材を使っていただくことで社会に価値を提供してきました。ただし、当社グループがこれからも持続的に提供価値を高めていくためには、お客様が必要とする素材を安定供給するだけにとどまらず、「こんなところにもアルミニウムが使えます」「他の素材からアルミニウムに変更するとこういうメリットが生まれます」といった新しい提案を、従来以上に強力に推進していく必要があります。

その意味で、これからのUACJという会社は、「素材を供給する企業」から、お客様や社会のイノベーションを支える「ソリューションを提供する企業」へと変わらなければならないと考えています。アルミニウムはすでに社会の幅広い領域で活用されているために、技術的に成熟した素材と考えられがちですが、機能や特性の面でも加工技術の面でもまだまだ伸びしろのある素材です。

実際、現在も「アルミニウムは加工が難しい」という声を耳にすることが少なくありません。鉄などに比べると加工が難しい点はウィークポイントともいえますが、私はそんな“弱点”にこそ新しいビジネスチャンスがあると考えています。統合の母体となった企業の創業時から数えれば1世紀以上にわたってアルミニウムの開発・製造に携わり、誰よりもこの素材に精通しているのがUACJの大きな強みです。その技術蓄積とノウハウを駆使して、部材の加工性を改善・向上するためのソリューションを提供すれば、これまで加工性がネックとなってアルミニウムの採用が進まなかった需要を開拓できるからです。

もちろん、弱点を克服すると同時に、アルミニウムのストロングポイントである軽量性や導電性、熱伝導性、リサイクル性の高さなどを、より効果的に発揮させるためのソリューションも欠かせません。すでに自動車分野ではボディパネルや構造材のアルミニウム化が進みつつあり、車体の軽量化による燃費改善や、材料のリサイクル促進など、環境負荷の低減に寄与しています。そこで当社は、自動車部品開発の中枢を担う「モビリティテクノロジーセンター」を立ち上げました。ここを中心に、拡大する自動車市場において提案型開発を加速させていきます。そして今後も、各領域でのソリューション能力をより一層強化し、アルミニウムという素材の力を最大限に引き出すことによって、環境負荷を減らし、持続可能で豊かな社会の実現に貢献していきます。

  • ※3 UACJ Automotive Whitehall Industries, Inc.

より長期的な視点から戦略を考え、次期経営計画を策定

現在、UACJは全力を挙げて構造改革を推進している状況ですが、改革が着実に進展していることを踏まえ、今後はその先の成長に向けた経営計画の策定に着手したいと考えています。計画策定にあたっては、従来よりも長期的な視点に立って戦略を考えていくつもりです。というのも、アルミニウム製造業は典型的な装置産業であり、設備投資の計画・実行から、稼働して利益が上がるようになるまでに、大規模な投資案件では5、6年くらい要することも珍しくないからです。そのため、これまでの中期経営計画のように3年単位で考えるのではなく、まず5年、10年といったより長期的なスパンで成長戦略を考え、最終的に3カ年計画としてまとめる場合も、その長期戦略の中の3年と位置づけるべきだと思います。

10年後の2030年は、ちょうどSDGsが17目標169ターゲットの達成を目指す区切りの年でもあります。そこで当社が注力するSDGsのターゲットも踏まえたUACJグループの“2030年のありたい姿”を設定して、その実現に向けた最初のステップとして次期の中期経営計画を策定していくのも一つの方法だと考えています。

その場合も、2020年2月に再定義した企業理念がすべての計画の起点となることは言うまでもありません。「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」という新たな企業理念を実現していくために、これからの10年間で私たちが何をすべきかを徹底的に考え抜き、SDGsなどのサステナビリティ面も踏まえた定性的・定量的目標を設定し、その達成に向けた施策を立案していきたいと思います。

このような中長期的な成長戦略を推進していくうえで当社の大きな強みとなるのが、アルミニウムに関する豊富な知見を駆使したソリューション能力と、日本・米国・タイの世界3極のグローバル供給体制です。この供給体制を活かして北米やアジアなどの旺盛な需要に応えるのはもちろん、例えば北米での缶材需給が逼迫した際にはUATHや日本の製造拠点で生産を補完するなどして、グローバルメーカーならではの安定供給を実現しています。また、日系の自動車メーカーや部品メーカーが北米での現地生産を展開する場合、日本国内で実績を有する当社グループが北米市場においても素材や部材を供給できるのもメリットです。さらに今後、欧米や日本に続いてアジアにおいても自動車のボディパネルや構造材のアルミニウム採用が加速すると予想されますが、北米や日本での実績・ノウハウのある当社グループなら、UATHの製造拠点を活かしてスムーズに供給体制を整備できます。

次期経営計画においては、このソリューション力とグローバル供給体制という当社グループの強みを最大限に発揮しながら、お客様と社会のニーズの変化に柔軟に対応していくことで、アルミニウムの新たなマーケットを積極的に開拓していきます。

アルミニウムは現代社会に不可欠の素材です。今春、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、北米で多くの工場が生産を停止していた期間にも、アルミニウム産業は社会の維持に必要なエッセンシャルな産業として政府の要請を受け、操業を継続しました。そんなアルミニウムメーカーとしての社会的使命をこれからも果たし続けていくためにも、UACJグループでは、新・企業理念のもと、全社員が強い意志と前向きな展望を持って新たなチャレンジを続けてまいります。今後とも一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

次期経営計画立案にあたっての考え方

次期経営計画立案にあたっての考え方