構造改革担当役員インタビュー

グループ全社員が心を一つにして
構造改革の実現に邁進していきます

取締役兼常務執行役員
構造改革本部長
経営戦略本部長
新堀 勝康
経営統合時に旧古河スカイの統合推進部長として経営統合を推進。また、(株)UACJ製箔 取締役社長などを歴任し、2019年9月に「構造改革の実行」の発表と合わせて構造改革本部長に着任。2020年4月の組織改編に合わせて経営戦略本部長を兼任。
構造改革を実行するに至った背景は?
急激な環境変化に対応し、筋肉質の企業体をつくるため抜本的な構造改革を決断しました。

UACJは、国内のアルミニウム上位2社が、グローバルメジャーへの飛躍を目指し、経営統合して誕生した会社です。経営統合が決まった当時、「これからどんな魅力的なビジネスができるのだろう」という高揚感が社内に満ちあふれていたことを今も覚えています。

その期待通り、UACJは、国内のみならず北米やタイなどで積極的な成長投資を実施し、世界でも屈指のアルミニウム会社へと成長しました。しかし、米中の貿易摩擦などの影響による需要停滞に加え、原材料や為替の変動などもあって、大型の先行投資が収益回収フェーズを迎える前に当社グループの各事業で収益力が大きく低下し、財務基盤も脆弱化する結果となっています。

この事態に至った背景には、既存事業を取り巻く市場環境が当初の想定を超えるほど急激に変化したことがありますが、そうした環境変化に柔軟に対応できない事業構造や、当社グループのマネジメント力不足がより大きな原因であると認識しています。そこで当社グループが、再び“稼ぐ力”を取り戻し、安定した経営基盤を構築するためには、現状の事業の枠組みのなかでの対症療法的な改善・改良ではなく、痛みをともなう抜本的な構造改革が不可欠だと判断しました。

通常、事業構造や組織体制を根本から改革するためにはかなりの時間を要しますが、計画未達の続く当社にそんな時間の余裕はありません。拠点の統廃合を含む事業の選択と集中、マネジメント組織の大幅な改変や企業文化の刷新など、危機感を持って各施策を実行し、環境変化に強い筋肉質な企業体を早期につくり上げていく所存です。

構造改革でまず着手すべき課題は?
マネジメントを含む組織体制を大幅に見直し、機動的な経営判断、業務執行のできる体制づくりを進めました。

UACJでは、今回の収益力低下、財務基盤の脆弱化を招いた最大の要因は、当社グループの各事業の“稼ぐ力”を客観的に捉え管理する、マネジメント機能の不足にあったと考えています。したがって、構造改革にあたっても、まずは当社の事業マネジメントの問題点を分析し、その機能強化、すなわち経営の質の向上を図ることに注力しました。

大きな問題点の一つが、2013年の経営統合後、組織機能の細分化で膨らんだ執行に携わる役員の人数でした。役員が多いために権限の範囲があいまいになり、一人の役員では決められない事案がどんどん増えていきました。その結果、個別の課題への対応に時間を要し、ひいては経営判断の遅れにもつながっているのではないか─取締役会や指名・報酬諮問委員会でも、こうした点について問題提起がなされました。そして徹底した議論を経て、マネジメント体制を思い切ってスリム化する方針を固めました。

2020年2月に発表し、4月からスタートした新体制では、執行役員をこれまでの27名から14名へと大幅に削減し、一人ひとりの執行役員の責任範囲と権限を明確化して業務執行に関する迅速な判断ができる体制としました。また、社外取締役についてはこれまで通りの4名を維持する一方、執行役員兼務の社内取締役を8名から6名に減らすなど、執行と監督との機能分離も推し進めました。これによって取締役会では、絞り込まれたメンバーによる議論の活性化とスピード感ある経営の意思決定が可能になりました。

さらにコーポレート部門の組織体制も大幅に見直しました。従来のコーポレート部門は、社長の下に18の部門が横並びに存在する体制であり、業務範囲・権限が細分化され、組織間のスムーズな連携が難しいという課題がありました。そこで新体制では、コーポレート部門に本部制を導入して「経営戦略本部」「財務本部」「ビジネスサポート本部」の3本部に再構成しました。明確な機能別組織へと改変することによって、組織間のスムーズな連携を促すことはもちろん、より迅速にグループ横断での経営判断を下せる体制にします。

これらの体制改革は、先日の株主総会において承認いただきましたが、機関投資家をはじめ各ステークホルダーからも高くご評価いただいています。

構造改革立案にあたっての考え方

構造改革を成功させるカギは?
グループ社員がOne Teamとなって改革を実行できるように、コミュニケーションと成功事例の共有に力を注ぎます。

今回の構造改革は、2013年の経営統合以降、UACJグループが築き上げてきた事業の枠組みや組織体制を大幅に再構築するものです。それだけに改革を成功させるためには、社員の心がバラバラにならないように、皆の意識を一つにまとめることが何よりも大切だと考えています。

構造改革の重要施策の一つに国内生産拠点の集約があります。この施策によって閉鎖・縮小となる事業所がある一方、反対にその生産を新たに移管される工場もあります。生産集約を進める過程では、どうしても部門間で「痛み」に大小の差を生じます。しかし、たとえ直接的な痛みを受けない部門の社員であっても「自分たちの職場が集約の対象にならなくて良かった」で終わってはいけません。再編の当事者となった拠点で働く人たちの痛みをきちんと感じ取って、これまで以上に生産効率を高めたり、コスト削減を図るなど、それぞれの職場をより良く変えていく前向きな行動を継続していかなければ、本当の意味で構造改革は達成できないと考えています。

このように構造改革を成功させるためには、一人ひとりの立場や役割は違っても、当社グループの全社員が同じ目的を持って主体的に行動することが欠かせません。グループ社員一人ひとりに改革の意義や重要性を理解してもらい、意識のベクトルを一つにすることが重要です。そのため、構造改革の柱の一つに、グループ理念の設定とその浸透を掲げています。理念の浸透にあたっては、目指す姿と価値観を示し、進むべき方向性を「UACJウェイ」として体得していくプログラムを組みました。そして、これらを推進する部署として「新しい風土をつくる部」を創設しました。同部では社長はじめ経営陣が社員と対話する機会を設定するなど、社員が理念を自分事として捉え、これを日々の行動の原点として実践できるよう取り組んでいます。

また、構造改革そのものの理解を深める活動として、本来なら私自身が各事業所に出向いて構造改革について直接説明する予定だったのですが、残念ながら新型コロナウイルス感染症の拡大によって、大勢の社員に直接会って対話する状況ではなくなってしまいました。そこで、オンラインのミーティングのほか、電子メールシステムを活用した「目安箱」の設置など各種電子媒体を活用して双方向のコミュニケーションを試みています。今後もさまざまな手段を講じて構造改革への理解を浸透させ、全員野球で心一つに改革を推進していけるよう努めます。

さらにもう一つ、改革を成功させるために重要なのは、できるだけ早い段階で「成功事例」をつくることです。例えば、生産現場の改革の結果、これだけコストが改善できたとか、売り方を工夫することによって新しい需要を開拓したなどのモデルケースを一つでも多くつくり出し、それをグループで横展開していきたい。改革を実行することで実際にこれだけの成果があったと具体例を示すことができれば、社員の改革へのモチベーションも格段に高まるはずです。

構造改革の推進体制

今後、構造改革をどのように進めていきますか?
各施策の進捗状況と効果をきめ細かくモニタリングし、必ずや計画を達成します。

UACJグループは、今回の構造改革により、2019年度時点に対して3年間で210億円の収益改善効果を生み出すことをコミットしています。改革着手後、新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大という想定外の事態が発生しましたが、そうした外的要因を理由にこの計画が頓挫することはあってはなりませんし、我々が自らの力をつけるという点では、環境が変わってもやり遂げねばならない目標であると考えています。 

前述したマネジメントや組織体制の改革はもちろん、国内の生産拠点集約や海外事業の収益改善、事業の選択と集中の加速など、構造改革の主要な施策はほぼロードマップ通りに進展しています。その進捗状況は決算説明会などで適宜報告しており、ステークホルダーの皆様から一定の評価を得ています。もちろん、皆様の大きな関心は、単なる施策の進捗ではなく、それぞれの施策による具体的な成果にあると理解しています。そこでこれからは、各施策によってどれだけの改善効果が上がっているのか、目標達成の道程を時間軸で示し、これを随時モニタリングしていく方針です。

当社では、それぞれの施策によってどれだけの改善効果を上げるかを細分化して計画を組んでいます。モニタリングの過程で、いずれかの施策で想定通りの成果が得られない見通しとなった場合は、その不足分を何で取り戻すかを検討し、迅速にテコ入れをしていかなければならないと考えています。

当社グループが「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」という企業理念の実現を目指し、そのプロセスを通して、今後も世の中になくてはならない企業の一つとして存続していくために、この構造改革は絶対に完遂しなくてはならないものと考えています。当社グループは、例えば、アルミニウム圧延品の国内生産の5割以上を占める大きな企業体となっていて、その事業活動が停滞すればさまざまな形でマイナス影響を社会に及ぼします。そうした社会的使命をいつも胸に刻み、グループ一体となってこの改革を実現してまいります。

構造改革の進歩