社外取締役メッセージ

構造改革の実行で収益基盤を固め
独自性あるアルミニウムメーカーとして
中長期的な事業成長の実現へ

独立社外取締役
作宮 明夫
元オムロン(株)取締役副社長。同社では、人事・報酬・社長指名の各種諮問委員会で副委員長を務めるなど、非執行の取締役として経営のモニタリングに注力し、コーポレート・ガバナンスやROIC経営で定評のある同社の企業価値向上に貢献。

UACJのコーポレート・ガバナンスマネジメント改革や報酬制度見直しで着実な改善が進む

私がUACJの社外取締役を拝命して2年が経過しました。着任以来、当社のコーポレート・ガバナンスの改革を提案してきたのですが、期待したスピードで進展しませんでした。しかし、その後次第に改革が動き始め、今回の構造改革にともなって大きく加速しました。その大きな成果の一つが、役員体制のスリム化や会議運営の改善などによる取締役会の実効性向上です。

私は就任後、当社の執行役員の数に驚くとともに、取締役会と執行の機能が分離されていないことに懸念を抱き、改善を提案してきました。執行役員は業務執行を担い、取締役会は執行状況のモニタリングと経営意思決定を担うという本来の機能分担ができていなかったため、「これでは取締役会が真剣な議論の場になり得ない」と厳しく意見してきました。

それに対し2020年4月からスタートした新体制では大きな前進がありました。これまで3名だった代表取締役が1名に、執行兼任の社内取締役が8名から6名へと削減されました。さらに執行役員は27名から14名へと大幅にスリム化されました。このように人数が絞られて執行の責任と役割が明確になったこと、社外取締役の数(4名)を維持するとともに執行兼任の取締役が減ったことなどによって、業務執行とモニタリングの機能分化がかなり進んだと思います。

また、取締役会の運営にも改善がありました。従来、取締役会は「報告案件」と「決議案件」の2つの枠組みで進められてきました。「報告案件」では数字が並んだ資料が次々と提出されて各部門の業績説明などが行われます。一方、「決議案件」は投資案件などについて取締役会としての意思決定を下します。そのため社外取締役からはいろいろ質問や意見が出るのですが、時間的な制約もあって社内取締役や執行役員の発言は少なく、活発な議論には発展しないのです。

これに対して当期からは、新たに「審議案件」が加わりました。これは報告や決議とは別に一定の時間枠を設けて、当社の戦略や方針などについて詳しく議論しようというものです。その結果、最近では社内取締役の方々の発言も活発化し、内容の濃い議論ができるようになったと感じます。

また、取締役会だけでなく執行役員を中心とした部門会議などでも、最近は業績報告や情報共有とは別枠で審議の時間が設けられました。以前、同席させていただいた時は、5分ごとに次から次へと報告が続き、出席者は皆黙って聞いているだけでしたが、現在では活発に議論が交わされているようです。

そして、もう一つの大きな改革成果が役員報酬体系の見直しです。当社の報酬体系における業績連動報酬の比率は、海外企業はもちろん(一社)日本取締役協会のガイドラインと比べても非常に低く、私はこれではインセンティブにならないと指摘してきました。この点に関しても今回見直しが進みました。中期経営計画の期間中でもあり、抜本的な改定までには至っていませんが、短期業績連動報酬の比率が若干引き上げられたほか、株主視点の経営を促進するために、中長期業績連動報酬の係数の一つとして新たにTSR(株主総利回り)が採用されました。

このように当社のガバナンスレベルは着実に向上しており、コーポレートガバナンス・コードで要求される水準に達しつつあると思いますが、まだ課題は残っています。その一つがサクセッション(後継者育成)プランの強化です。もっと早い段階から有望な若手・中堅に積極的にチャンスを与え、難易度の高い仕事を通じて能力を伸ばし、将来の経営人財として育てていくべきです。こうした課題を含め、今後も一層のガバナンス強化に向けて議論していきたいと考えています。

構造改革の実行とROICの導入不退転の覚悟で徹底的な改革の実行を

UACJグループでは、早期の業績回復と脆弱化した財務体質の改善を図るため、2019年10月から構造改革を実行しています。私見になりますが、この困難な状況を招いた最大の原因は、経営統合後、まずは合併効果の最大化を図って収益基盤を盤石にすべきだったのに、それが不十分なまま事業のグローバル化に向けた大型投資を実行したことにあると考えています。今回の構造改革は、そんな統合時の原点に立ち返り、国内拠点の集約化や合理化・効率化などによって損益分岐点を下げ、環境変化に強い収益構造を実現していくものであり、当社がこれから存続・発展していくためには不可欠の取り組みです。

構造改革の実行にあたって、私は次の点を強く要望しました。一つは、「やり残したことは何もない」と自信を持って言えるくらい、徹底的に追い込んだ計画を練り上げることです。そしてもう一つが、この改革を成し遂げられなかったら「会社の解体もやむなし」というくらいの覚悟を持って実行することです。

ここまでは、社長を中心に組織的に計画が取りまとめられ、全社体制で実行されつつあると思います。また、社内だけでなく対外的にも計画の内容を驚くほど詳細に発表した点も評価できます。投資家の皆様も、その姿勢から当社の改革への本気度を感じるとともに、その具体的な成果に注目しているはずです。

改革着手後、米中貿易摩擦の激化や新型コロナウイルス感染症の感染拡大などの影響で経営環境は厳しさを増しています。しかし、想定外の環境急変はいつの時代にも起こり得ることであり、それを言い訳にはできません。この厳しい環境のなかでも、ステークホルダーの期待を裏切ることのないよう、きちんと成果を出すためには何をすべきかを考え続けなければいけません。私も社外取締役としてその実現に向けて、最大限にサポートをしていくつもりです。

経営の改革としては、当社は近年ROIC経営の導入に取り組んできましたが、この点については残念ながら十分な成果が得られていないのが現状です。私は、ROICを部門ごとの収益意識を高めるための管理ツールだと考えています。当社でも財務本部が中心になって、事業部門別に投下資本と期待される利益水準を見える化するなど、ROIC導入に向けた準備を進めています。今後はその管理手法を各部門に展開するとともに、一人ひとりの社員に、例えば売掛金を早く回収することがROIC向上にどのようにつながるのかなどを理解してもらい、日々実践してもらう必要があります。

ただし、ROIC経営は事業分権のレベルが一定以上に達していなければうまく機能しません。ほとんどの事業が順調で一部の事業に問題があるのなら分権でいいのですが、その逆の状況にある現在の当社において事業の分権を進めるのは困難です。そのためにも早期に構造改革を実現し、本格的なROIC経営に移行できる環境を整えてほしいと思います。

将来の成長に向けて財務規律を厳守しつつ、イノベーションに挑む

今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対して、UACJは緊急対策本部をいち早く設置するとともに、感染防止策をはじめ感染者が出た場合の対応方法、製造所の稼働停止をも想定した事業継続プラン(BCP)の策定、緊急時に備えた資金対策まで、非常にスピード感を持って実行してきたと思います。

そして、これからのwithコロナ、afterコロナの時代のなかで、当社は構造改革を早期に実現し、次期中期経営計画のもとで中長期的な事業成長を追求していかなくてはなりません。引き続き缶材や自動車分野などが重点市場になると思いますが、グローバルプレーヤーとして世界の動向をいち早くキャッチし、どのビジネスを伸ばして競争に勝っていくのかといった成長戦略を深堀りする必要があります。また、次期中期経営計画では事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献していく「サステナビリティ経営」の考え方を事業戦略に織り込んでいくことも不可欠になります。

さらに私は、次期中期経営計画の策定・実行にあたり、次の2つを強く要望します。一つは財務規律の厳守です。成長を目指してチャレンジすることは大切であり、私自身大好きなのですが、やはり財務基盤、収益基盤、技術基盤といった基礎体力をしっかりと固め、その余力をもってチャレンジするべきだと思います。

もう一つは、その技術基盤にも関連しますが、当社の独自性をもっと打ち出すことです。「アルミニウムが環境に優しい」というのは、どのメーカーでもアピールできることであり、そのなかで競争に勝つためには、UACJならこんな付加価値を提供できるという独自性が必要です。一般論としてアルミニウムはすでに技術的に成熟しており、もう大きなイノベーションは生まれないのではないかとさえいわれています。実際、当社も含めほとんどのメーカーでは売上高に占める研究開発費の割合が1%に満たないのが現状です。技術革新が期待できない事業を先進国で継続していく意味はあるのかという疑問さえ生じてきます。

もちろん、当社の経営陣もその点は理解しており、これからはボリューム競争ではなく高付加価値化で勝負していく方針です。問題はその高付加価値化・差別化のシーズやニーズをどうやって探り当てるかですが、これは粘り強くリサーチを続けるしかありません。例えば、電気自動車やロボットなど新しいアプリケーションが生まれる領域をウォッチしていくと、新たな素材ニーズが見出せるかもしれません。次期中期経営計画では、こうしたイノベーション創出を組織的に実現するための施策にも、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと考えています。