社外取締役・社内取締役 鼎談
執行と監督がともに描くUACJ VISION 2030への航路
──対話がもたらす経営の質の向上
隈元 穣治(写真左)
取締役 専務執行役員
経営戦略本部長
永田 亮子(写真中央)
社外取締役(独立役員)
指名・報酬諮問委員会 委員長
岡田 浩三(写真右)
取締役 執行役員
財務本部長
第4次中期経営計画(第4次中計)の前半戦を終え、当社は成長投資内容を見直す意思決定をしました。
その背後には、取締役会での率直で緊張感のある議論がありました。監督と執行の対話がいかに経営を動かしているのか、そしてUACJ VISION 2030に向けてどのような道筋を描いているのか。社外取締役の永田亮子と、執行の中核を担う隈元穣治、岡田浩三が語り合いました。
執行と監督の対話が、経営の質を変えた
Q.取締役会での議論の質と、それが経営に反映されるプロセスが重視されています。UACJの取締役会は、実際にどのような対話の場になっているのでしょうか。
隈元
執行か監督かという立場の違いをことさら意識することはありません。当社で長年育ってきた者での議論だけではなく、多様なバックグラウンドを持つ社外取締役の方々との対話が執行にとって大きな気づきの機会になっています。「そういう視点は考えたことがなかった」と思う時もあれば、「ここはやはりホットポイントだったんだ」と外部の目からも認めていただけたことが自信になる時もあります。
岡田
私は財務本部長として取締役会に出席するようになって1年ですが、心掛けているのは、とにかくわかりやすく伝えることです。数字の意味が伝わらなければ、良い議論も生まれません。社外取締役の方々から的確なご指摘をいただけるかどうかは、私たち執行側の説明の質にもかかっていると考えています。
隈元
取締役会での執行からの説明が、どのように受け止められ、議論され、結論に至ったかを、迅速に執行組織に返していくことも大切です。私が心掛けているのは、取締役会での協議のフィードバックを、その日のうちに経営戦略本部のメンバーへ必ず共有することです。「ここは説明が物足りないと言われた」「この点は褒められた」──それを即座に伝えることで、メンバー自身の頭のなかもアップデートされていく。取締役会が単なる報告の場ではなく、組織全体の学習サイクルに組み込まれている、というのが今の姿です。
岡田
財務本部では、取締役会が終わって席に戻ると、本部のメンバーが「どうでした?」と待っているんです。「ここを言われた」「今回は褒められたよ」──このサイクルを毎月繰り返しています。
永田
私は社外取締役として、報告される数字の裏に執行側が一枚岩の意識を持っているかどうかという点に注意して聞いています。数字が良くても慢心していないか、悪くても腐っていないか、前向きに取り組む意欲があるか。ニュアンスを言葉にするのは難しいのですが、そうした「透明性」や「本気度」を見ています。岡田さんについては、数字を通じて事業本部にきちんとフィードバックし、次のより良い意思決定に繋げるハブ機能が果たせているかをいつも見ています。財務が持つ役割は本当に大きいですから。
隈元
私が取締役会に参加するようになって数年ですが、当時からこの雰囲気でした。忖度ではなく本音でぶつかり合える。バッドニュースも共有されて、初めて健全な意思決定ができるのだと感じています。
永田
わが社の取締役会は、社内取締役も社外取締役も、そして監査役の皆様も、発言量がとても多いのが特徴です。ときには監査役が先に手を挙げる。「永田さんはそう言ったけど、私は違います」と、明確に反対意見も出る。派閥もなく、出来レースもない。これが日常です。心理的安全性が高いというのは、こういう状態を指すのだと思います。
取締役会での議論が投資配分見直しを動かした
Q.第4次中計の前半戦で、取締役会での議論が経営判断に大きく作用した象徴的な場面がありました。
岡田
第4次中計における成長投資の配分を見直しました。当初、成長投資としては自動車部品分野への大きな投資を計画していました。それを、包装容器(缶材)、リサイクル、航空宇宙・防衛材へと大胆に振り替える判断をしたのですが、その意思決定の背景には、取締役会での率直な議論がありました。
隈元
ある社外取締役の方が、「このまま自動車に振り続けるのは、崖に向かって全力疾走するようなものでは」と指摘されたのです。私たちも自動車マーケットの変化には気づいていましたが、「新規投資の規模は縮小する」というレベルの議論だったのが、その一言で「思い切ってスパッと新規投資をやめ、他分野へ振り替える」という方針転換を取締役会で諮るに至りました。社外取締役の的確な指摘が、大胆な方向転換を後押ししてくれたのです。
永田
事業本部長自身が「もうやめます」とは言いづらいものですが、外の目から見て「これは危ない」と伝えられれば、執行側も腹落ちしやすいと思います。あの時はほかの社外取締役も、隈元さんの見直し提案に対して「よくやった」と全員賛成でした。取締役会が、執行の意思決定を支え、加速させる場になった好例だと思います。
隈元
実は、第4次中計での自動車分野への成長投資を縮小し、事業拡大に注力するタイミングを後ろ倒しすることは、半年かけて議論を重ねた末の決断でした。自動車部品事業本部長自身も悩んでいました。そこに取締役会からの明確なメッセージが加わったことで、最終的に意思決定できました。
岡田
財務の立場からも、投資配分の変更にはその裏づけが必要です。北米自動車部品事業ではのれんの減損対応もあり、マーケットをどう見るか、事業本部長と何度も話し合いました。ただ、日常的に隈元さんと目線を合わせているので、取締役会で初めて聞く話ということはなく、ストーリーがずれることはない。日常のコミュニケーションが、取締役会での意思決定の質を支えていると感じます。
永田
それでも、その決断が「絶対正解」とは限らない。中東情勢や地政学リスクで前提条件がまた変わることもあります。モニタリングを継続すること、変化を受けて再判断できる柔軟性と機動力を持ち続けることが、今の経営には不可欠です。
第4次中計後半の蓋然性、そして新領域事業への正直な自問
Q.第4次中計後半の蓋然性については、いかがでしょうか。
岡田
ここまでは順調に進捗していると思っています。2024年度、2025年度と社内計画どおりの事業利益が出ており、Adjusted EBITDAも順調です。2026年度はさらに飛躍する見通しで、後半戦の蓋然性への自信はあります。ただ、第4次中計はUACJ VISION 2030への通過点にすぎません。UACJ VISION 2030を成功させるために、この間に何を仕込むかが最大のポイントだと考えています。
永田
執行側メンバーの経営視点のレベルが上がってきたという実感もあります。この3年間で、財務数字を基にしたPDCAが健全に回り始めた。以前は教科書的な報告でしたが、今は「こういう課題があったから、次はこうします」という意志ある発言に変わっています。資本効率の意識が現場まで浸透してきた手応えは大きいですね。
Q.一方で、新領域事業の拡大には課題も残ります。
隈元
正直に申し上げて、新領域は前半戦、もっとできたはずでした。自責を込めて、後半戦はますますドライブしていく覚悟です。0から1、1から10へと成長させるのが私の職分ですから、そこは覚悟を持って必ずやり切ります。
永田
新領域は、私も一貫して取締役会で「もっとやってほしい」と伝えている領域です。わが社は真面目で、オーガニックグロース型の考え方が強い。それは強みでもありますが、M&Aやアライアンスを積極的に探索する視点もこれからは不可欠になると思います。仕込みができているなら、現場視察の時にでも「実は仕込んでいます」と一言言ってほしい(笑)。社外取締役として、そういう積極的な情報共有を執行側からしてくれることを期待しているのです。
隈元
6月の株主総会後、新たに就任された社外取締役の方のなかに、前職で新領域事業に携わってこられた方が2名いらっしゃいます。ご挨拶のなかで「マネタイズは大変です」と率直に語ってくださった。成功だけでなく苦労もされてきた方々の知見を、後半戦で活かしていきたいと思っています。
サーキュラーエコノミーの「心臓」が、いよいよ動き出した
Q.中長期の企業価値向上の観点で、注目されている取り組みは。
隈元
リサイクルは当社経営の最重要テーマの一つです。山一金属株式会社とのジョイントベンチャーで運営するUBC加工処理設備が稼働を開始し、最初の1トンが当社の溶解炉に向かって流れ始めました。当社は「アルミニウムのサーキュラーエコノミーの心臓役になりたい」と申し上げてきましたが、いよいよその心臓が最初の拍動を始めたという段階に入ったのです。血が回り始めれば、循環の全体像が具体的に見えてきます。「サーキュラーエコノミーとはこういうものか」を、当社の実践を通じて社会にお示しできるようになります。
永田
これは本当にわが社のユニークネス&ストロングネスだと思っています。「こうやります」と言うだけでなく、「実際こうなっています」と世界に示せる段階に入るのは、非常に大きな意味を持ちます。グローバルにも通用するモデルとして、リサイクル事業をぜひ育ててほしいと思います。
岡田
環境価値の経済価値化についても、以前よりお客様の反応が確実に変わってきています。グリーン地金やリサイクル材を求めるニーズが広がり、「リサイクルが付加価値になる」という手応えが、確実に出始めています。ここは会社全体で加速させ、取り合いになるくらい世の中に率先して届けていかないといけないと考えています。
永田
サーキュラーエコノミーの実装は、わが社にとってのマネタイズであり、社会課題解決でもあると考えています。両立できる稀有な事業領域ですから、後半戦の最重要テーマの一つですね。
「アルミでかなえる、軽やかな世界」の実現に向けて
Q.最後に、それぞれのお立場から、これからの覚悟をお聞かせください。
隈元
私が大切にしているのは、「何か特別なことができる人ではなく、何が起きても、会社を安全なところにナビゲートできる人材」を育てることです。想定外なことにも立ち向かい、自分と配下の人間を安全に導ける人。次の世代へのバトンを、そういう形で確実に渡していきたいと考えています。
岡田
私は財務の立場から、いつでも動ける企業体質を維持することを使命だと考えています。2019年10月から2023年3月の構造改革の時のように「投資したくてもできない」状態に二度と陥らないよう、規律ある財務基盤を守り続ける。それが本当のサステナビリティであり、次の成長への備えです。
永田
私がつけ加えるとすれば、「変化を先取りする力」です。変化を見てから対応するのでは遅いのです。勇気とチャレンジ精神、失敗をおそれない姿勢、そして粘り強くやり切る胆力。わが社が真に強い会社になるためには、この組織カルチャーの醸成が欠かせません。
隈元
動き出したサーキュラーエコノミーの心臓が、これから全身に血を巡らせていく。航空宇宙・防衛材事業も、次の成長ドライバーとして育っていく。新領域事業も、後半戦で必ず形にする。UACJの本当の勝負は、これから始まるのだと思っています。
永田
取締役会での率直な議論、執行と監督の緊張感ある対話、そしてわが社のビジョンに向かってともに進む覚悟。これらが揃った今、私自身も社外取締役として「変化を先取りする経営」を支える一員でありたいと、改めて強く思います。


