トップメッセージ

環境変化を新たな成長機会と捉え
世界的な競争力を
一層強化していきます。

代表取締役社長 岡田 満

環境変化こそが新たな成長へのチャンス

「めまぐるしい環境変化だった」――「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」を目指し、UACJが新たな挑戦を開始して4年近くが経過しました。この4年間を振り返るとそのように感じます。世界のアルミニウム業界を取り巻く環境は、アジア・新興国市場の成長や、自動車用アルミニウム材の需要拡大に拍車がかかるなど、当初の想定以上に大きく変化しました。当社では、こうした環境変化こそが新たな成長への最大のチャンスと捉え、グローバルカンパニーとして世界で戦うための基盤強化に取り組んできました。

2016年度は、前年度に引き続き、タイ、北米を中心としたグローバル供給体制の強化に注力しました。タイのUACJ (Thailand) Co., Ltd.(以下、UATH)は、年間18万トンの生産能力を持ち、お客様は東南アジアだけでなく中近東から豪州まで、すでに50社以上に拡大しています。当社が実施した市場調査によると、アジア(日本・中国を除く)・豪州・中近東・インド・アフリカ地域の缶材需要は、2014年の88万トンから2020年には125万トンに増加するとみています。

このように十分な需要が見込めることから、2016年11月にUATHの生産能力を年間32万トンに引き上げる第3期投資を決定しました。これによりUATHラヨン製造所は、名古屋・福井製造所と並ぶ生産能力と高品質、コスト競争力を備えたアジア屈指の工場となります。また、グローバルな供給体制を求める製缶メーカーなどに対して、日本・北米・タイの3極で部材を供給できる「グローバルサプライヤー」として、さらに強いプレゼンスを構築できたと考えています。

一方、北米市場では、急速に成長しつつある自動車用パネル材の事業に参入すべく、2014年、欧州Constellium N.V.社との合弁会社Constellium-UACJ ABS LLC(以下、CUA)を設立しました。世界一の生産効率を誇るTri-Arrows Aluminum Inc.(以下、TAA)のローガン工場において自動車用アルミニウム母材の生産を開始し、2016年6月以降、CUAでは自動車メーカー向けにサンプル出荷・販売を進めています。

さらに自動車の軽量化要求の高まりによって、アルミニウムは自動車用パネル材以外にもシャーシなどの構造材としても採用が広がりつつあります。そのため当社は2016年4月、北米において構造材・部材のトップブランドを持つ、UACJ Automotive Whitehall Industries, Inc.(以下、UWH)を子会社化しました。UWHに対しては、約30億円の設備投資が決定しており、最新鋭の機械設備の導入によって生産効率と品質の向上、収益拡大を図ります。今後もUACJグループは、パネル材・構造材の両方に対応できるサプライヤーとして、北米市場でのさらなるプレゼンス拡大を目指します。

このように北米市場では自動車用パネル材・構造材の需要が増大する一方、サプライヤーの自動車材へのシフトにともなう缶材の供給不足が懸念されています。そこで当社ではTAAでの生産能力の増強やスラブの内製化にともなうコストダウンに注力しています。2015年10月に2億4,000万ドルの設備投資を決定済みですが、さらに2016年11月にも1億7,500万ドルの設備投資を決定しました。これらの投資によって、TAAにおける当社グループの生産能力を現在の年間32万トンから2019年までに40万トンに引き上げ、缶材の供給能力を落とすことなく自動車向けの母材供給量を拡大するための生産基盤を確立していきます。

一方、国内における「最適な生産体制の構築」は、概ね予定通りに進捗し、2016年度内にほぼ完了しました。研究開発体制についても、研究リソースを名古屋に一元化し、新製品開発と次世代基礎技術の強化を推進してきました。その結果、新たな接合技術を駆使した自動車ボディ部品の開発や、大型国家プロジェクトに参画して航空機用高強度高靭性アルミニウム合金を開発するなど、付加価値のある新製品・新技術を着実に創出しています。

このように2016年度は、グローバルカンパニーとしてさらなる成長を果たしていくために、国内外で積極的な戦略投資を実施しました。その結果、2016年度の販売数量は前年度を上回り、UACJとして統合後初めて100万トンを超えました。売上高は円高による為替換算の減少や地金価格の下落による影響を受け、前年度比74億円減の5,683億円となりました。損益面では、棚卸評価関係の改善やエネルギー単価の下落、統合効果によるコストダウン、UATHの業績改善などにより、営業利益は前年度比107億円増の259億円、経常利益は同78億円増の198億円となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、同36億円増の87億円となりました。

中期経営計画の位置づけ
中期経営計画の位置付け中期経営計画の位置付け
中期経営計画「Global Step Ⅰ」の重点方針
中期経営計画「Global Step Ⅰ」の重点方針戦略実行に向けた方針
世界の缶向けアルミニウム板需要推移
世界の缶向けアルミニウム板需要推移
世界の輸送※1向けアルミニウム板需要推移
世界の輸送向けアルミニウム板需要推移
統合後の戦略的施策
統合後の戦略的施策
変化を求め成長の源泉に

アルミニウムの新たな可能性を追求し、より広く社会・環境に貢献していく

アルミニウムは、現代社会で広く活用されている金属ですが、実は、人類が利用し始めてからまだ200年程度しか経っていない比較的新しい素材でもあります。それだけに、今後も斬新な発想や技術革新によって、まだまだ新たな用途を開拓できる余地があります。

UACJグループは、この素材のポテンシャルを最大限に引き出し、さまざまな社会課題の解決に貢献していくことこそが、アルミニウムメーカーの究極のミッションと考え、多角的な技術開発・用途開発を進めています。たとえば、自動車用パネル材の開発においても、単に“鉄からアルミニウムに置き換えて軽量化する”だけにとどまらず、“新たな接合技術によって組立工程の生産性向上も可能にする”といった新たな付加価値の創出を目指して、自動車メーカーと連携しながら技術開発に注力してきました。これからもアルミニウムという素材の可能性を追求することによって、自動車や航空・宇宙分野をはじめ、機械、エレクトロニクス、環境、エネルギーなど幅広い領域で革新的な新技術・新製品を創出できるものと確信しています。

また、アルミニウムそのものの製造プロセスの革新にも継続的に取り組んでいます。鋳造-熱間圧延-冷間圧延-仕上げといった各工程を一つひとつ見直しながら、地道な改善を加えていくのはもとより、工程の簡略化によるコストダウンや、エネルギー消費量の低減についても研究を進めています。

さらに、環境負荷低減に向けて欠かせないテーマが、アルミニウムのリサイクル促進です。この取り組みで最先端を行く米国のTAAでは、原材料の約80%をリサイクルによってまかなっており、資源節約に貢献すると同時に、原料コスト、エネルギーコストの削減も実現しています。今後は、このTAAのリサイクル技術やリサイクルチェーンのノウハウを他の工場にも導入し、UACJグループ全体でリサイクルを強力に推進していく計画です。

アルミニウムで社会課題解決を

UACJグループの将来ビジョン

スローガン

アルミニウムの持つ可能性を最大限に発揮し、社会と環境に貢献する企業になる

目指すべき姿

  • すべてのステークホルダーに信頼され、共存、発展できる企業
  • 世界のすべての地域の顧客から、存在価値を認められる企業
  • 各地域の特性に合った製品を的確に開発、供給し、それぞれの地域に根差す真のグローバル企業

真のグローバルカンパニーとしてビジョンの共有化と人材育成強化を推進

UACJグループの事業フィールドは、統合前に比べて飛躍的に拡大しました。前述のタイや北米におけるビジネス展開も、統合によって世界のアルミニウムメジャーに伍して戦えるだけの企業体力を得たからこそ実現した戦略です。それだけに統合後のUACJでは、多くの社員がこれまで経験したことのないグローバル規模の新しいビジネスに挑戦していくことになりました。また、近年の積極的な戦略投資の結果、北米・アジアを中心に多くの人材が新たに当社グループに加わりました。このように事業のグローバル化が急速に進展するなかで、グループ各社を適切にマネジメントし、多様な価値観を持つ人材の能力を引き出していくのは容易ではありません。

そこで当社では、統合以降、UACJグループとしての「明確なビジョン」を打ち出すとともに、その考え方をグループ全員で「共有化」することによって、国籍や出身母体などの違いを超えた、人と人、組織と組織との効果的な「連携」を可能にし、一人ひとりが持てる力をフルに発揮できる環境整備に努めてきました。企業規模や事業エリアが拡大するほど加速度的に難易度が上がる困難な課題ではありますが、UACJグループが真のグローバルカンパニーへと飛躍するためには避けて通れない最重要施策として全力を注いできました。

統合から約4年、もちろんまだ十分とはいえませんが、国内外のグループ各社でビジョンの「共有化」が着実に進み、組織・社員による「連携」が効果を上げつつあると実感しています。たとえば、ラインが稼働して間もないタイのUATHでは、最近ではほぼ現地スタッフだけでオペレーションできる状況となり、現地スタッフ主体の改善提案なども活発になっており、目標としていた月産1万トンを達成しました。第3期投資が立ち上がる2019年には、より一層高効率でスムーズな操業が実現しているはずです。

一方、これまで古河スカイ、住友軽金属工業で活躍してきた人たちも、経営統合にともなう大幅な組織改編や、その後の成長地域・成長分野への事業シフトといった大きな変化のなかで、それぞれが新しい経験を積み、自ら意識改革を果たしていくことによって、着実に実力を伸ばしてきたと確信しています。人間は同じ仕事をずっと続けるよりも、新しい仕事にチャレンジしたり、新しい人や組織と連携したりといった「変化」があってこそ、大きく成長できるものです。当社では、これからもこういった「変化」を意識的につくり出し、一人ひとりの人材が持続的にスキルアップしていける環境を実現していきます。

そんな取り組みの一つがグローバルな人材交流の強化です。すでに、当社の各製造拠点や技術開発研究所と米国TAAの間では、エンジニア同士の意見交換などが活発に進められていますが、今後はCUAやUWHなども含めた人材交流を活性化させていきます。当社では、こうしたグローバルな人材交流や人材登用を実現してこそ、これまでの積極的な海外投資が本来の価値を発揮すると考えています。これを円滑に推進するために、現在、海外グループ各社にどのような技術や技能、ビジネスキャリアを持った人材がいるかなどを登録した「人材バンク」の構築に取り組んでいます。

さらに、真のグローバルカンパニーを目指すうえで、欠かせない課題の一つに「働き方改革」の推進があります。日本企業と海外の企業では職務分掌などが異なるケースがあるので単純に比較はできませんが、日本におけるホワイトカラーの生産性にまだ改善の余地があるのは確かです。今後、海外グループ会社との比較なども含めて具体的な課題を検討するとともに、IoTやAIといった先端ITの活用も視野に入れながら、勤務時間の短縮と生産性向上を追求していきます。

一方、グローバル企業グループとしてのコーポレート・ガバナンスの強化も重要な経営テーマです。当社では、これまでも取締役会の経営監視機能強化やCSR委員会の開催、コンプライアンスやリスク管理の徹底などに注力してきました。今後も社外取締役・監査役とのフリーディスカッションの機会を増やすなど、当社の経営に対して多様な観点から一層活発に議論していただくための環境づくりを進め、さらなるガバナンスの実効性向上を追求します。

共有化と連携で真の統合を

これまでの投資成果を確実に取り込みながら新たな成長戦略を積極的に推進していく

中期経営計画の最終年度を迎え、現在、当社では2018年度から2020年度までの次期中期経営計画「Global Step II」の検討を進めています。次期計画においても引き続き積極的な成長施策を実施する予定ですが、同時にこれまでの投資成果を確実に取り込んでいってこそ新たな成長段階へと進めるものと考え、北米の自動車関連事業やUATHの収益力強化などに全力を注いでまいります。また、国内においても「最適な生産体制の構築」がほぼ完了したことから、今後需要拡大が見込まれる自動車用パネル材事業の基盤強化やUWHモデルの国内展開など、新たな成長戦略を積極的に推進していきます。

さらに、事業統合によるシナジーをより高いレベルで追求していくことも大きな課題です。統合以降、国内外における事業融合は順調に進んでいますが、現状は統合前の2社の人材や、M&Aなどにより新たにグループに加わった組織・人材がうまく混じり合って調和している“物理反応”の段階にあると思います。今後は、前述したグローバルな人材交流や人材登用などを通じて、さまざまな技術やビジネスのバックグラウンドを持つ人材の協業による“化学反応”を促進し、技術的なイノベーションや新たなビジネス価値の創出を実現していきます。

UACJグループは、これからも事業環境の変化につねに能動的に対応することで、新たな成長のチャンスを拡大させ、「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」の実現に向けて前進してまいります。

皆様には、今後も変わらぬご指導、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

積み重ねを糧に次の成長段階へ