海外事業戦略部と経理部のトップが語る
UACJのグローバル戦略

財務状況との
バランスを踏まえた攻めの投資で
真のリーディングカンパニーを目指す。

財務状況との
バランスを踏まえた攻めの投資で
真のリーディングカンパニーを目指す。

プロフィール
中野 隆喜 取締役 兼 専務執行役員 海外事業戦略部、広報IR部担当 Tri-Arrows Aluminum Holding Inc. 取締役社長 (左)
長谷川 久 取締役 兼 常務執行役員 経理部、経営企画部担当 (右)

「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」の実現に向けて、グローバル規模のビジネス基盤構築に取り組むUACJグループ。統合以降の積極的な投資戦略の背景やその意思決定プロセス、今後の課題などについて、中野専務、長谷川常務が語り合いました。

ビジネスチャンスを確実に捉えるために
財務体質に留意しつつ積極的な戦略投資を推進

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UACJでは、経営統合以降、北米やアジアを中心に大規模な成長投資を実行してきました。これまでの投資戦略についてどのようにお考えでしょうか?
中 野
大型投資を積極的に進めてきた最大の理由は、現在、世界のアルミニウム産業が、非常に大きな成長のタイミングに差しかかっていると考えているからです。近年、東南アジアをはじめインド、中東、アフリカといった新興地域の経済発展により、缶材・一般材の需要が増大しています。一方、先進国市場でも、自動車の軽量化要求にともなうアルミニウム製のパネル材・構造材の需要が急拡大しつつあります。これらは1990年頃、飲料缶がスチールからアルミニウムへと置き換わった時期に匹敵する、いや、それ以上の大きなビジネスチャンスといえます。
長谷川
その変化の波を確実に捉え、事業成長を実現していくことが必要です。そこでUACJでは、アジアの中心拠点UACJ (Thailand) Co., Ltd.があるタイにおいて、周辺地域における堅調な需要拡大が見込まれることから、第3期の設備投資を決定しました。また北米においても、自動車用パネル材事業を推進する合弁会社のConstellium-UACJ ABS LLC(以下、CUA)を設立し、さらに自動車用構造材・部材のリーディング・カンパニーをグループに迎え、UACJ Automotive Whitehall Industries, Inc. (以下、UWH)として子会社化しました。
中 野
同時に、北米で缶材・自動車用母材を供給するTAAのローガン工場においても生産増強のための設備投資を実施しました。今後、前述のCUAにおける自動車用パネル材、UWHでの構造材・部材事業についても需要の増加に応じて追加投資を検討していきます。さらに北米に続き、日本やアジアでも自動車用パネル材・構造材の市場が拡大していくのは間違いありません。今後も、こうした成長市場・成長分野に投資し、確実にシェアを確保していくことが重要です。
長谷川
同感です。これからも引き続き積極的な投資が必要なのはいうまでもありません。ただし、UACJがグローバルカンパニーとして持続的な成長を続けるためには、先行投資によって事業拡大を追求すると同時に、健全な財務体質を維持していくことも不可欠です。
中 野
統合後の約4年間は、将来の成長に向けた重要な投資局面と判断し、先行投資を優先させてきた結果、フリー・キャッシュ・フローがマイナスの状態が続いています。しかし、このままずっとマイナスを続けるわけにはいきません。これまで投資した事業の収益拡大を図るなど、財務とのバランスを踏まえていく必要があります。
長谷川
積極的に先行投資するということは、有望なアセットを積み上げていくことを意味します。ただし、リスクもあります。一つひとつの案件が長期的には非常に有望なアセットだったとしても、計画通りに利益を計上できなければ、財務バランスを悪化させる結果になるので、PDCAを回して管理していくことが重要になります。
中 野
いずれも徹底的に議論、検討した末に決定した投資案件ではありますが、前提条件となる外部環境が当初の想定以上に大きく変化し、計画に狂いが生じるリスクはあります。
長谷川
私は財務・経理を担当する者として、そのように計画通りに進まなかった場合にも、会社全体、グループ全体としては、問題なく成長し続けられるくらいの財務基盤を築いておくことが何よりも大切だと考えています。
中 野
そんな財務基盤強化の一環として、この3月には、新株式発行(約146億円)と劣後特約付ローン(400億円)によって約550億円の資金調達を実施しましたね。
長谷川
財務の観点では、全額公募増資で調達する方が自己資本に厚みが増し、安全度が高まるのですが、その分、株式の希薄化も大きくなります。そこで、資本と負債の中間的性質のある劣後ローンによる資金調達を同時に実施することで、希薄化を極力抑制しつつ、財務基盤の安定性を高められるものと考えています。
中 野
2016年11月に投資を決定したタイと北米の案件は、これから資金支出していくので、財務体質の健全性を維持しつつ安定的な資金調達を図ることは重要な経営課題といえます。
―――
戦略投資や資金調達といった重要な意思決定に関するUACJのガバナンスをどのように考えていますか?
中 野
UACJにおける意思決定プロセスは、外部の目が加わる取締役会や監査役会はもちろん、部門の会議においても内部でいろいろなチェックが入るのが特徴です。これには、UACJが経営統合した会社であるがゆえに、一つひとつの議案をていねいに説明し、きちんと手順を踏んで議論していかないと物事が先に進まないという事情があり、ガバナンス的には非常に良いことだと思います。また、同じ社内取締役でも、戦略企画の立場から新たな投資先を探している自分のような人間もいれば、長谷川さんのように財務規律を重視する立場の人もいます。社内にいろいろな異なる意見が存在しているので、ブレーキとアクセルとのバランスがうまくとれており、暴走する危険が少ないのも特徴ではないかと思います。
長谷川
私自身、決して投資に反対ではないんですが、たとえ非常に魅力的な投資先であったとしても、たくさんの投資案件が控えているなかで「このタイミングで投資するのが本当に最適なのか?」という観点から遠慮なく意見させていただいています。
中 野
そういった異論が飛び交う真剣なディスカッションを経て結論を出していますので、取締役会で取り上げる段階では、確信を持って意思決定を下せる状況になっているはずです。
長谷川
これからも自由にモノが言える風土、異なる意見を尊重していくカルチャーは大切にしていきたいですね。

改善から革新へ−−−−−−− 21世紀型の製造業への挑戦

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最後に、これからのUACJの課題について、お考えをお聞かせください。
長谷川
統合以降、将来の成長に向けた戦略投資に注力する一方で、一般の設備維持のための投資を絞らざるを得なかった事情があります。しかし、今後、UACJが中長期的に成長を果たしていくためには、既存の工場・設備をメンテナンスしていくとともに、どこかの段階で思い切った設備更新を事業施策や研究開発と併せて実施する必要があります。
中 野
製造業の世界では電子機器や自動車など加工組み立て型の業界を中心に、IoTやAI、ビッグデータ、3Dプリンタなどの情報技術を活用して製造現場の高度化を図ろうという取り組みが活発化しています。私たちアルミニウム産業においても、いずれは“20世紀型”の生産ラインから、“21世紀型”の生産ラインへと工場を革新していく必要に迫られるのではないでしょうか。
長谷川
同感です。製造現場の革新が求められている背景には、単に生産性や事業競争力を高めるという目的だけではなく、もっと大きな社会環境の変化があると思います。少子高齢化による労働人口の減少が進むなか、今後、製造業においても女性や高齢者の従業員がさらに増えていくはずです。機械化・自動化が進んだといっても、まだ人手に頼らざるを得ない作業もあるので、成年男子に比べて非力な女性や高齢者でも無理なく安全に働けるように、作業環境を改革していく必要があります。
中 野
また、事業のグローバル化にともなって、今後は東南アジアなどの海外グループ会社から研修生などの形で国内事業所にやってくる人材や、日本に留学に来たままUACJに就職する人材が一層増えていくはずです。彼らが持てる力をフルに発揮してもらうには、たとえ日本語の読み書きができなくても問題なく工場のオペレーションができる仕組みをつくっていく必要があります。
長谷川
いわば、人材の多様化、グローバル化といった社会変化に対応した新しい製造現場・事業所づくりが求められているわけです。もちろん、こうした取り組みは、国内に限らず、世界レベルで進めていくべきテーマだと思います。
中 野
統合以降、UACJは積極的な先行投資によってグローバルな事業ネットワークの構築に力を注いできました。その結果、生産拠点などのハード面の整備が進み、人材も厚みを増してきました。これからは、第2フェーズとして、先進的なITの活用や、人材・組織の強化といったソフト面の一層の強化を図り、21世紀の製造業にふさわしい高度なオペレーションを追求していかなければなりません。
長谷川
そうした革新をグループ全体で推進していけるように、国内外のグループ会社の経営についてもきちんとフォローしていくつもりです。また、グループ全体のガバナンスをしっかりと効かせていくためにも、共通するビジョンや価値観といったものをグループの全役職員に浸透・徹底させることが重要です。
中 野
UACJには、統合以前からそれぞれが培ってきた“ものづくり”に対する強いこだわりが、今も脈々と受け継がれています。たとえば、同じ100億円の利益向上でも、棚卸評価関係による会計上の利益よりも、“ものづくり”を追求した結果の100億円の方が断然いい。どんなにグローバル化し、企業規模が大きくなっても、「製品をつくって、お届けして、お客様に喜んでいただく」ことが製造業の原点という価値観が揺らぐことはありません。
長谷川
結果的に、それが社会に貢献することになりますからね。
中 野
これからもグループ全体でこうした価値観を大切にしながら、21世紀型のものづくりに挑戦していきたいと考えています。