トップメッセージ

経営統合の“化学反応”を加速させ
真のアルミニウムメジャーグループとして
世界の成長市場・成長分野を勝ち抜く。

代表取締役社長 岡田 満

未来へのファーストステップ

「このままでは日本のアルミニウム産業に未来はない」――強い危機感のもと、古河スカイと住友軽金属工業が経営統合し、UACJグループとしてスタートしてから間もなく3年になります。少子高齢化・人口減少社会を迎えて成熟化が進む国内アルミニウム市場は、かつてのような成長は望めない状況です。一方、アジアなどの成長市場においては、世界のアルミニウムメジャーはもちろん、新興国メーカーなどが続々と参入し、競争環境は一段と厳しさを増しつつあります。アルミニウム業界において、長年ライバルとして切磋琢磨してきた国内上位2社が統合に踏み切った背景には、業界を取り巻くこうした事業環境があったからです。

統合以来、経営トップとして私が最も力を注いできたのは、この厳しい事業環境下においてUACJグループがこれから進むべき道筋を明らかにし、将来ビジョンや具体的な方針・戦略などをグループ全体に浸透させ共有していくことでした。

UACJグループは、アジアをはじめとする成長市場や自動車軽量化などの成長分野における熾烈な競争を勝ち抜いていくことで、自らの未来を切り拓き、持続的な成長を果たしていかなければなりません。そのために、2014年3月末、「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」の実現に向けた「UACJグループの将来ビジョン」を発表し、統合で拡充・拡大された経営リソースを最大限に活用して「グローバル供給力」「コスト競争力」「技術開発力」を強化していく基本方針を打ち出しました。

2014年12月には、この将来ビジョンの方針を各事業の戦略へと展開した中期経営計画「Global Step Ⅰ」を策定しました。これは将来ビジョンの達成に向けた長期的なロードマップの第1ステップとなるものです。2015年度から2017年度までの3カ年を「基盤強化」段階に位置付け、「(1)自動車を中心とした輸送分野、エネルギー分野などの成長製品の拡大とアジアを中心とした成長地域の事業強化」「(2)各事業の最適生産体制の構築および技術融合の推進」「(3)先端基礎研究の強化と豊富な蓄積技術の活用による新技術・新製品の開発」の3つの重点方針を掲げました。

この方針のもと、計画初年度となる2015年度は、生産品種の集約化など国内の事業構造改革を強力に推し進めてきました。一方、海外事業においては、2015年8月にタイのラヨン製造所で年間20万トンの一貫生産体制が確立しました。米国においても現地生産拠点の設備増強や合弁事業の展開、全米No.1のブランド力を持つ自動車構造材・部品企業の買収などによって自動車向けアルミニウム製品の供給力拡大を図っています。さらに研究開発においても、国家プロジェクトへの参画や得意先との連携を通じて、エネルギー・環境・輸送機器などの成長分野を中心とする新製品・新技術開発に注力しました。

2015年度の連結売上高は、統合前の2社(合計)を大きく上回る5,757億円と次期には6,000億円超えを狙えるポジションにまで到達しました。また、損益面ではタイ工場の立ち上げコストやアルミニウム地金価格下落の影響などにより減益となったものの、統合によるコスト削減効果も着実に現れつつあります。収益の実力を示す棚卸評価前経常利益やAdjusted EBITDAでは増益であり、次期以降の収益回復、拡大に向けた事業基盤は整いつつあります。

中期経営計画の位置付け
中期経営計画の位置付け中期経営計画の位置付け
戦略実行に向けた方針
戦略実行に向けた方針戦略実行に向けた方針

“物理反応”から“化学反応”へ

統合以来、国内外における事業融合は順調に進捗していますが、統合シナジーを最大限に追求するという観点から見ると、現状はまだ、旧古河スカイと旧住友軽金属工業というそれぞれ固有の企業文化を持った組織や人材がうまく混じり合っている“物理反応”の段階にあると思います。もちろん統合によるコスト削減効果などはすでに現れているものの、1+1を3や4に高めるまでには至っていません。今後、こうしたプラスの相乗効果を生み出すためには、たんに融合するだけでなく、異なる個性や文化による“化学反応”を促進し、新しい価値を創出していくことが大切だと考えています。

たとえば、これまでは融合を円滑に進めるために、互いの技術や営業ノウハウなどを擦り合わせて、どちらか良い方を選択するといった取り組みが中心でしたが、これからは、それらが“なぜ良いのか”を論理的に解析して、より優れた技術やノウハウへと進化・発展させていくアプローチが重要になります。

こうした異なる個性・文化による“化学反応”は、海外拠点のオペレーションにも欠かせません。私自身、かつてベトナムで工場経営を経験して実感したことなのですが、海外工場の円滑な操業を実現していくためには、日本のやり方を一方的に押し付けたのではうまくいきません。大切なのは、UACJグループの理念やものづくりの考え方を現地の従業員と共有すると同時に、現地の文化や国民性といったものを十分に理解し尊重すること。その上で、日本のものづくりの手法を現地の人々に合ったスタイルにアレンジしたり、現地従業員がよりよいものづくりのために積極的に意見を出したり、提案したりできる環境を整える必要があります。

UACJグループでは、これからも中期経営計画「Global Step Ⅰ」の各施策を推進するなかで、グループのさまざまな事業の現場における“化学反応”を促進し、UACJグループとしての新しい企業文化を醸成させていきます。

グローバル展開を加速し、千載一遇のチャンスを捉える

UACJグループでは、海外の成長市場や成長製品分野での熾烈な競合を勝ち抜いていくために、研究開発やM&Aなどを加速するとともに、日本・北米・タイの3極によるグローバル供給体制の強化を推し進めています。

グローバル市場の中でもとくに高成長を続けているのが東南アジアです。東南アジアの2020年度のアルミニウム需要は、2012年度に比べ約2倍に拡大すると予想しています。この東南アジア地域の供給体制を強化するために、UACJグループでは2012年からタイにアルミニウム圧延工場「ラヨン製造所」の建設を進めてきました。2014年1月に稼働した「冷間圧延」「仕上げ」ラインに続いて、2015年8月には上流工程の「鋳造」「熱間圧延」ラインも完成しました。これによって高品質と低コストを兼ね備えた、年間20万トンの生産能力を有する一貫生産体制を確立しました。UACJグループでは、この「ラヨン製造所」を、グローバル供給体制の要に位置付けており、今後も必要に応じて段階的な生産能力の拡大を検討します。

一方、アルミニウム業界において最も大きな成長が期待できる製品が自動車分野です。世界各地で環境規制・燃費規制が厳しさを増すなかで、自動車メーカーは、車体の軽量化を実現するために、パネル材やフレーム材などに軽量なアルミニウムの採用拡大を推進・検討しています。巨大な市場規模を持つ自動車用パネル材・構造材への応用が進みつつあることは、アルミニウム産業にとって非常に大きなビジネスチャンスといっても過言ではありません。

そこでUACJグループでは、この千載一遇のチャンスを捉え、厳しい環境規制が導入され、自動車用アルミニウムの最重要市場、米国で確実にシェアを握るための大型投資を積極的に実施してきました。まず2014年に、欧州Constellium N.V.社との合弁で自動車用パネル材の製造販売会社Constellium-UACJ ABS LLCを設立し、2016年6月から操業を開始しました。また、当社の米国連結子会社であるTri-Arrows Aluminum Inc.のローガン工場に2億4,000万ドルを投資して、鋳造能力を含むアルミニウム板圧延能力の増強を図りました。スラブ材の内製化を推進することによって、北・中米事業全体でのコストメリットを追求するとともに、前述の合弁会社への母材供給体制を整えました。さらに、北・中米での自動車用アルミニウム構造材・部品事業を強化するため、Whitehall Industriesのブランドで知られる同分野における北米のリーディングカンパニーを買収し、UACJ Automotive Whitehall Industries, Inc.として立ち上げました。

今後は、これら北・中米におけるUACJグループ会社のシナジーによって、コスト・クオリティ・デリバリーを向上させ、現地での自動車用アルミニウム事業をさらに強化・拡大していく計画です。

このようにグローバル戦略を積極的に推進する一方で、2015年度は日本国内においても生産体制の最適化に向けた生産品種移管を着実に推し進めてきました。その統合効果はすでに80億円に及んでおり、今後さらに拡大していく見込みです。

UACJグループでは、これからも財務バランスに配慮しながら、ビジネス機会を確実に活かすための戦略的な事業投資を着実に実行し、グローバル規模での成長を加速させていきます。

アルミニウムでもっと広く社会に貢献する

アルミニウムは、人類が活用し始めてからまだ200年くらいしか経っていない新しい金属素材です。長い歴史を持つ鉄に比べれば応用範囲もまだ限られているため、今後も新しい発想や技術開発によって新たな用途を開拓できる余地が大きい素材でもあります。

私は、学生時代から入社後に至るまで一貫してアルミニウムの研究に携わってきました。それだけにアルミニウムの新しい用途拡大を図り、アルミニウムをもっと広く社会に貢献できる金属素材にしたいという情熱では誰にも負けないと自負しています。

今回の経営統合によってUACJグループの研究開発部門は大きく厚みを増しました。これまで名古屋と深谷の2カ所にあった研究開発拠点を名古屋に集約し、新体制を整備しているところですが、アルミニウムの加工分野に特化したメーカーとして300名規模の研究開発要員を擁する企業は、世界でも当社以外に存在しません。また、旧古河スカイの研究開発部門はどちらかというと若手中心で構成され、一方の旧住友軽金属工業は中堅が多かったため、統合後の新体制は年齢構成的にも非常にバランスの良い組織になりました。今後、互いに触発し合い“化学反応”を起こすことによって、研究開発をさらに加速させてくれるものと期待しています。

研究開発・用途開発の進め方としては、自社のリソースだけにこだわらず、企業のお客様と共同で開発・試作を推進するオープン・イノベーションを活発に展開しています。実際、UACJグループでは多くの開発担当者がお客様のもとに積極的に足を運び、素材特性に関する要求や技術的課題に応えるソリューションの提供に努めています。たとえば、現在の自動車のパネル材・構造材には、さまざまな素材が用いられているため、自動車用アルミニウム材料・部品の研究開発においては、素材そのものだけでなく、異種材料の接合性を含めた技術の開発・提案に力を注いでいます。

UACJグループでは、こうしたマーケット・インの研究開発を通じて、これからもお客様の課題解決につながる高付加価値のアルミニウム製品を提供していきます。このお客様本位の姿勢やきめ細かな技術サービス、お客様の厳しい要求に応えて磨いてきた品質などは、より規模の大きなアルミニウム企業と競争していくうえで大きな武器になるはずです。もちろん、今後も常に時代の一歩先を見据えながら、自動車を中心とする輸送機器分野や環境エネルギー分野など、さまざまな社会課題の解決に役立つアルミニウムの新用途開発に積極的に挑戦していきます。

悲観せず、楽観せず、危機意識を持って行動する

事業環境がめまぐるしく変化する現代社会において、人も企業もずっと順風満帆であり続けることはできません。私自身も入社後、開発部門のエンジニアや工場長、海外生産拠点の経営など、それぞれの立場でいろいろな困難に直面してきました。そんな時に、大きな心の支えとなったのが、日本研修センターの代表をされていた故・武島一鶴先生の著書『人生、再出発のとき読む本』の言葉でした。「自分にとって、よりよいと思う方だけを選び続けたその蓄積の結果が、今日の私なのだ」̶̶30代の頃、研修で出逢ったこの一節に大きな感銘を受け、以来、何事においても不満を他人に転嫁することなく、自分の人生に対して常に“当事者意識”を持って考え、行動するよう努めてきました。

ですから企業経営においても、私自身が当事者として可能な限り現場に足を運び、現物を見て、現地で苦労している人たちの話を聞くように心がけています。現場・現物・現実を重視する「三現主義」です。この三現主義を浸透・徹底させていくためにも、私はいつも社員に「悲観せず、楽観せず、危機意識だけを持って行動しよう」と話しています。悲観というのは最初からあきらめて行動しないことであり、楽観というのは高をくくって必要な対応を怠ることです。そうではなく、現実をしっかり直視し、危機意識あるいはモチベーションを持って行動することで、初めて人も企業も成長すると考えています。

経営統合にともなって新たな企業文化が形成されつつある現在は、人材力・組織力を高める最大のチャンスでもあります。今後もこうした危機意識・当事者意識を浸透させることによって、社内各部門での“化学反応”を一層活性化させ、研究開発やビジネスにおけるブレークスルーを起こしていきたいと考えています。

さらに、UACJグループが真のグローバル企業としてすべてのステークホルダーから信頼される存在であり続けるため、取締役会による経営監督機構の確立や、CSR委員会の開催、コンプライアンス、リスク管理の徹底など、コーポレート・ガバナンスの強化に注力しています。UACJグループは、「世界的な競争力を持つアルミニウムメジャーグループ」の実現に向けて、これからも中期経営計画「Global Step Ⅰ」に基づく成長戦略を確実に実施し、企業価値の向上に努めてまいります。皆様には、今後も変わらぬご指導、ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

中期経営計画の進捗(PDFファイル)中期経営計画の進捗(PDFファイル)