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「本気の人的資本経営」で企業価値向上へ

浦吉 幸男(写真左)
執行役員
ビジネスサポート本部長

赤羽 真紀子(写真右)
社外取締役(独立役員)

当社は、「人こそが価値創造の源泉」という考えのもと、人にまつわる理念と施策を一枚の設計図として見える化を進めてきました。現在は、外部の研究による知見も取り入れながら、「人材戦略」の実行が「Well-beingの向上」と「人材力・組織力の向上」の好循環を促し、そのことが「企業価値の創出」に繋がるという仮説を実証する試みを進めています。その到達点と今後の課題について、人材戦略担当役員と社外取締役が率直に語り合いました。

ピープルステートメントに込めた「経営の覚悟」
Q.まず、UACJピープルステートメントと人的資本経営の全体像を策定した背景を教えてください。

浦吉

社内では「エンゲージメント」「Well-being」「DE&I」など、人にまつわる多くの概念が並列に走っていました。それぞれ大切な取り組みですが、当社として「人材面で何を実現したいのか」という全体像が見えにくい状態でした。そこで、社長の「未来をつくる源泉は人」や「働く一人ひとりのWellを高めることを重視したい」という思いを言葉として表し、施策を一枚の絵にまとめました。働く一人ひとりのWell-beingが向上することで、その働きが家族や周りの人々、地域や社会のWellに繋がり、それがまた一人ひとりのWellの波として還ってくる。この「Well-WAVE」を広げていくことは、経営の強い意思表明であり、また企業理念の実現に直結する重要テーマでもあると考えています。

赤羽

私は複数の外資系企業を経験してきましたが、当社の「一人ひとりを育て、チームとしてまとめていく」文化は際立って強いと感じます。UACJピープルステートメントは、その強みを経営の覚悟として明示した意義ある一歩だと感じました。

浦吉

2026年度から社長方針にも組み込まれ、従業員には「会社としての本気度」が確実に伝わっています。本社を起点に「UACJピープルステートメント対話会」も始めており、動画も活用してグループ会社への展開も進めています。もう一つ大切な点は、タイや米国などを含めた海外拠点の従業員も腹落ちできるよう、議論を重ねながら策定し、英語化したことです。グローバル企業としての横串が通った人的資本経営にいよいよ踏み出したという実感があります。

人材戦略の9つのテーマは施策リストではなく、戦略の設計図
Q.人材戦略を9つのテーマに整理された狙いは。

浦吉

9つのテーマは、「組織づくり」「人づくり」「働く環境づくり」の3本柱に、採用・配置、人材育成、処遇、職場環境整備などを人材マネジメントの流れとして落とし込んだものです。ポイントは、各テーマに「ありたい姿」を設定したこと。そこから逆算して施策を置いているので、単なる施策リストではなく、経営戦略に連動した設計図として機能します。

赤羽

網羅性はもちろんですが、UACJ本来の強みは柔軟性にあると思っています。取締役会のオフサイトミーティングでは、浦吉さんや事務局と踏み込んだ議論をさせていただいていますが、例えば基本テーマの名称一つとっても、「『後継者育成』じゃなくて『リーダーシップ』に変えましょう」と言うと、皆さん素直に受け止めて、実際に書き換えてくださる。社外取締役の言葉一つひとつを柔軟に施策や執行に反映してくださる意思決定の速さは、とても心強く感じています。

浦吉

リーダーシップの本質は、組織を「引っ張ること」と、対話を通じて人を動かす「コミュニケーション」の両輪だと、赤羽さんに教えていただきました。多国籍な人材と多様な拠点(現場)を抱える製造業としてはまさにそのとおりで、技能系・スタッフ系の研修プログラムの設計にもこの観点を反映しつつあります。社外取締役の指摘が、そのまま執行の実装に繋がる。ここは当社のガバナンスの強みだと感じています。

人材施策をより有効なものにしていくために
Q.施策の効果検証で、何が見えてきましたか。

浦吉

共同研究を進めている京都大学の砂川伸幸教授・山田和郎准教授の研究チームは、人的資本や企業価値評価の分野で先端的な研究を進めておられます。その知見を得ながらエンゲージメント調査結果と人事施策の相関分析を進めるなかで、持株会への加入や「Unipos*1」などが、Well-beingと正の相関を示すことが確認されつつあります。これまでは「思う限りの施策を並行して打つ」形になりがちだった人材施策を、データに基づいて「効果のあるものから優先度をつけ、素早く実行に移していく」段階へと進化しつつあり、その意義は極めて大きいと考えています。

赤羽

私自身、スターバックスコーヒージャパン時代の経験から、「褒め合う・感謝を伝える」文化がリテンションや帰属意識、そして業績にまで結びつくことを実感してきました。それが数値で見え始めたというのは本当に大きな一歩だと思います。

浦吉

今はまだ「相関」の段階ですが、私たちの目標はその先にあります。それは、「人的資本への投資が企業価値をどれだけ高めるか」を実証することです。

  1. 従業員同士が感謝の気持ちをポイントとして送り合う仕組み

人材施策と企業価値との接続を目指す
Q.KPIはどのようにアップデートされましたか。

浦吉

従来のKPIは中計指標が中心で、人材施策や「人的資本→企業価値」の因果を捉える枠組みとしては課題がありました。そこで人材ポートフォリオの量・質の充足率、そして「わたしたちの働くWell度」「わたしの働くWell度」「わたしの心と体のWell度」の3つのWell度を最終KPIとして設定しました。抽象度の高いWell度を実務に落とすため、共同研究の成果も踏まえて中間KPIも緻密に設計しています。例えば、エンゲージメント調査の設問のうち、「わたしたちの働くWell度」との相関が高い「職場の挑戦意欲度」などを選び、内部管理指標として運用しています。

赤羽

その緻密さが、外部にはまだ十分に伝わっていないと感じています。理念、施策、KPIの繋がりを、ここまでつくり込んだのに、外から評価されないのはあまりにもったいないですね。

浦吉

内部管理指標のなかでも開示できる部分は、投資家の皆様にお伝えしていく方向で検討していきます。

人材ポートフォリオ ―「質」のギャップを可視化
Q.人材ポートフォリオの可視化で、何が見えましたか。

浦吉

2025年度、事業部・コーポレート単位で人材ポートフォリオの棚卸しを行いました。「量」については以前から人員計画としてフォローしてきましたが、事業部ごと、コーポレート機能ごとに「求める人材像」を具体的な言葉で言語化し、そのギャップを数値として可視化したのは、これが初めてです。ここまで解像度高く整理できたことは大きな一歩でした。

赤羽

As-Is(現状)とTo-Be(ありたい姿)を、300近い項目で分解して分析されており、表から見えにくい部分で本当に丁寧な仕事が積み上げられていると、社外取締役の目から見ても感心しました。そこで見えてきたのは、当社の強みと課題の両方です。強みは、誠実性、チームワーク、好奇心、他者尊重、分析思考、業務遂行力。製造業として長年培ってきた組織の強さがそのまま数値化された印象です。一方、最大のギャップはチャレンジ精神と行動力。これを埋めるには、若手の早期登用やジョブローテーションの頻度・速度の向上が有効で、オフサイトミーティングと取締役会でも同様の議論が交わされています。

浦吉

加えて、海外売上比率が6割を超える当社にとって、グローバル人材の質のギャップは最大の経営課題です。この点は、当社の「足らざる資本」として率直に認識しており、海外トレーニー制度の再構築を含め、内部で育てる仕組みに刷新していきます。

赤羽

取締役会では「平均値ではなく、事業部・機能別に分解して施策を打つべき」という声が強く出ました。事業部ごとに求める人材像は異なります。それに合わせた施策設計が必要だと感じます。

浦吉

これを受けて、人材戦略部内に「部門伴走人」を配置しました。これは、事業本部の取り組みを支援するもので、将来的なHRBP*2の役割も視野に入れています。取締役会での議論が、そのまま執行の実装に繋がる。この循環こそ、当社のガバナンスの強みだと自負しています。

  1. Human Resource Business Partner。経営層や各事業・機能の「ビジネスパートナー」として、戦略の実現に向けた組織・人材面での施策立案および推進を担う専任担当者(組織)

リテンションは、9つのテーマの総合力で実現する
Q.リテンションを人材戦略のなかでどのように位置づけていますか。

浦吉

素材メーカーの当社にとって、リテンションは安全・品質・技能伝承を維持する経営課題そのものであり、育てた人材の離職は教育投資の損失でもあります。だからこそ、9つのテーマを一体で実行することが、リテンションの最大の施策だと考えています。Well-beingが向上すれば、従業員は「この会社にいたい」と感じてくれる。ここに一貫性があります。現状は、技能系の離職率がスタッフ系より高い状況にあることから、事業部門とコーポレート部門で連携する「現場ウェルビーイング向上会議」を立ち上げ、暑熱対策や休憩スペースなど福利厚生設備の整備といった、現場に即した打ち手を積み上げています。

赤羽

製造所を訪問した際に拝見した、女性従業員が安心して働ける休憩スペースが印象的でした。細部まで配慮が行き届き、他社と比べても現場の一人ひとりを大切にする姿勢がはっきりと伝わってきます。やるべきことを一つひとつ形にする姿勢はとても頼もしい。加えて、次期中計に向けて、役員報酬にエンゲージメントスコアを組み込むことも議論する価値があると考えており、今後、取締役会や指名・報酬諮問委員会で提言していきたいと思います。

エンゲージメントの向上こそ、最強の採用施策
Q.採用面でのUACJの強みは。

浦吉

事業面での当社の強みは、グローバル供給体制、サーキュラーエコノミーの推進力、高付加価値な製品を生み出す技術開発力を併せ持っているところです。このような環境下で、さまざまなキャリアを経験しながら成長を感じられる、魅力のある会社だと思っています。一方、地域限定志向や専門職志向など、多様なキャリア観に応える人事制度の整備が今後の課題です。

赤羽

「日本に本社を置きながら海外事業を大きく展開している」ことも大きな強みだと思います。若いうちから海外で挑戦できるチャンスは、外資系よりむしろ当社の方が大きいくらい。この魅力はまだ十分に伝わっていない気がします。

浦吉

加えて、従業員のエンゲージメントが上がると、従業員自身が「いい会社だよ」と友人や家族に伝えてくれることが採用面では大きい。実際、従業員のご家族が入社する事例も生まれており、エンゲージメント向上こそが、最強の採用施策だと考えるようになりました。

人材戦略を、企業価値に
Q.最後に、目指す姿を教えてください。

浦吉

私たちが目指しているのは、当社の人材戦略が企業価値の創出に繋がり、人材への投資がコストではなくバリューを生み出している状態を実現することです。

赤羽

当社の本気度と柔軟性は、社外取締役として見てきたなかでも際立っています。取締役会やオフサイトミーティングでの議論が、そのまま執行の具体的な打ち手に繋がる循環が機能している。人材戦略が業績、PBR、そして企業価値に結びつく証明が、少しずつ見え始めてきた今こそ、開示の厚みを増し、社会と投資家にしっかり伝えていくタイミングだと思います。