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経営統合から10年、
世界屈指の供給体制を構築し、
グローバルなアルミニウム
メジャーグループとして
社会に貢献しながら、
持続的成長を果たしていく。

代表取締役 社長執行役員
石原 美幸

生産能力、売上規模ともに想定以上の成長を実現し、大きな可能性を持ったアルミニウム企業へ

UACJは2013年10月の経営統合から10周年を迎えました。加えて今年は当社の母体の一つである旧・住友軽金属工業の源流である住友伸銅所がアルミニウム圧延事業を開始してから125年という節目の年でもあります。

当社は「世界的な競争力を持つ日本発のアルミニウムメジャー」への飛躍を目指し、日本のアルミニウム圧延メーカー上位2社の経営統合によって誕生しました。人口減少にともない国内のアルミニウム需要が減衰していく一方、欧米やアジアなどの海外市場では今後も高い需要成長が見込まれています。そこで国内トップ2社の経営統合によるシナジーを発現するとともに、国内事業のスリム化を進めながら、経営資源を海外の成長事業に重点配分することで、グローバルなアルミニウム圧延メーカーとして持続的に成長していこうと考えたのです。

統合後、当社は第1次、第2次の中期経営計画を通じて、中長期的な事業成長に向けた海外での大型投資を次々に実行してきました。米国ではTAA※1ローガン工場の生産能力増強を実施したほか、UWH※2の買収・生産能力増強を行いました。一方、東南アジアでは、現地の旺盛な需要に対応すべく建設を進めてきたタイUATH※3ラヨン製造所の第1期~第3期工事が完了しました。これらの結果、2022年度の生産量は世界133万トン、生産能力そのものは140万トン以上に達するなど、当初の想定以上の成果を上げることができました。

とくに板事業では、UATHの生産が本格化し、日本からの輸出をカバーする補完的な役割を大きく超え、世界26カ国、約80社に製品を供給する一大拠点へと成長しました。これにより年間約30万トンの生産が可能な4つの製造拠点を日本、米国、タイの3極に所有する、世界屈指の供給体制が整いました。また、板事業以外でも押出、箔、鋳鍛など各事業でもグローバル展開を進めました。UWHの買収などによって、自動車部品という新たな成長事業を立ち上げることができたのも大きな成果の一つです。

2022年度の売上高は、統合前の2社合算4,364億円の倍以上の9,629億円に達し、1兆円企業に手の届く規模にまで成長しました。もちろん売上規模だけでなく、ビジネスエリアや製品分野などもこの10年間で大きく拡大しました。その後半5年間をけん引してきた私にとっても喜びに絶えない成果です。これまで一緒に汗を流してきた仲間はもちろん、これから当社に入社してくれる人も含め、「誰もがワクワクするような、大きな可能性を持った会社になった」というのが、統合10周年にあたっての私の実感です。

  • ※1 Tri-Arrows Aluminum Inc.
  • ※2 UACJ Automotive Whitehall Industries, Inc.
  • ※3 UACJ (Thailand) Co., Ltd.

社員とともにグループの存在意義を再定義し、大きな痛みをともなう厳しい構造改革を完遂

もちろん、すべてが順風満帆だったわけではありません。とくに私が経営を引き継いだ2018年以降、米中貿易摩擦に端を発した中国経済の減速と急激な国際市況の悪化などの影響で、2018年度、2019年度と収益が計画の2~3割に落ち込みました。この難局を打開すべく、2019年10月から「稼ぐ力の向上」「財務体質の改善」「マネジメントの仕組みの強化」を柱とした抜本的な構造改革に着手しました(構造改革の詳細はP19参照)。これは祖業である銅管事業の譲渡や歴史ある日光製造所の閉鎖などの大きな痛みをともなう改革でもありました。さらに翌年からは新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、顧客企業の操業停止による販売量の減少、自社生産設備の立ち上げの遅れなどの問題が生じましたが、追加施策を実施することで計画の遅延を補いました。これらの結果、当初計画した210億円分の稼ぐ力の向上をはじめ、財務体質改善、執行体制のスリム化などによる経営のスピードと質の向上を実現し、当社グループを「環境変化に左右されにくい、筋肉質でしなやかな企業体質」に変えることができました。

私は「この改革を完遂できなければ会社の解体もやむなし」という強い危機感のもと不退転の覚悟で構造改革に臨みました。そんな危機感と「なぜ今この改革をやらなければならないか」という問題意識を皆で共有し、グループ全員が心を一つにして改革に取り組むことができるよう、まず当社の存在意義(パーパス)を問い直し、企業理念や目指す姿、大切にしたい価値観、行動規範などを明示することにしました。それが「素材の力を引き出す技術で、持続可能な社会の実現に貢献する。」というグループ理念や「UACJウェイ」、長期経営ビジョン「UACJ VISION 2030」です。これらの理念体系を社員参加型のプロセスで策定し、それぞれバックグラウンドの異なる社員が同じ目的に向かって行動できる企業風土づくり(新たな風土づくりの取り組みについてはP69参照)を進めたことが、今回の構造改革を完遂するための大きな推進力になりました。

「自分の仕事が誰の役に立つのか」を知ることが、相互の理解と尊重を深め、生産能力、売上規模ともにエンゲージメントの高い職場をつくる

このように経営統合から10年を経て、当社はグローバルなアルミニウムメジャーへと進化しました。その飛躍の原動力となったのは、まぎれもなく当社グループの「人」の力であり、「人」こそが最大の強みであると確信しています。

私は、入社後、経営統合まで旧・住友軽金属工業の主力工場であった名古屋製造所に勤務し、統合時は同製造所の所長を務めていたのですが、翌2014年から旧・古河スカイの主力工場の一つであった福井製造所の所長に就任しました。統合間もない時期で相互のカルチャーの違いはありましたが、どの製造所でも、そこで働く人たちの不断の努力と創意工夫によって「ものづくり」が支えられているのを実感し、「ものづくりは、人づくり」であるという信念をより一層深めました。

この「人」の強みが遺憾なく発揮された事例が、タイUATHの立ち上げプロジェクトです。かつて名古屋や福井の製造所もそうであったように、アルミニウム圧延工場が利益を出すまでには、通常は立ち上げから10年以上かかるものなのですが、UATHは立ち上げから6年で利益を出すことができました。これは、グループ内から経験豊富な多数のエンジニアがUATHに集結し、生産ラインを立ち上げると同時に、設備を安定的に運用できるように優秀な現地オペレータを育成してきた成果でもあり、優れた営業スタッフが世界中を駆け回った結果です。

このように当社グループには、125年の歴史の中で培ってきたさまざまな技(わざ)と術(すべ)が蓄積されています。これらを時代を超えて伝承し、さらに磨きをかけていくことによって、「人」の強みをより一層強化しています。こうした伝承の場は、製造現場での安全教育や技能の伝承から始まり、設備保全、研究開発など事業のさまざまな領域にものづくり学園として広がりつつあります。私はこの伝承のカルチャーをこれからも20年、30年と継続・発展させることで、より強い「人」と「組織」をつくり上げていきたいと考えています。

そのためにはグループの社員一人ひとりが持てる力をフルに発揮できる環境を整備することが不可欠です。そんな環境整備の一環として、当社では2021年に「健康経営宣言」を行い、会社と社員およびその家族が健康への意識を高め、心身の健康維持・促進に努めています。その改善傾向は従業員エンゲージメント調査で確認しています。

さらに、グループ理念の浸透を図り、社員個々のモチベーションや職場のモラール(士気)を高めるべく、グループ各社の社員との対話にも力を注いでいます。コロナ禍の影響で一時はリモートで実施したこともありますが、それ以外は私自身が国内外のさまざまな事業所を訪れ、社員と直接対話しています。2023年5月にドイツで開催した対話会が100回目となり、社長就任後に開催した社員との対話会は、すでに110回を超えました。対話会では、グループ理念や行動指針、事業戦略、仕事の課題や手応えなど、幅広いテーマについて所属や役職の垣根を超えて自由に話し合っています。

対話会を通じて私が繰り返し伝えてきたのが「持続可能で豊かな社会に貢献するためには、UACJ自身が持続可能な会社でなければならない」「自分の仕事がどこで誰のために役立っているかを知ってほしい」ということです。持続可能性の大切さについては皆に共感してもらえるのですが、自分の仕事がどのように役立っているのかについては「実感しにくい」という意見が少なくありません。

そんな時、私はよく当社のハニカムパネルが使用された500系新幹線について話します。このハニカムパネルは、世界初となる曲面にアルミろう付けされたもので、アルミニウムにとって最大の課題である高剛性を保ちつつ、車体を軽量化し、さらに車両の防音性能を向上させます。ある製造所での対話会で、この事例を話し、「皆さんが日々、技術力を高めて作っているアルミニウムは、環境負荷を低減しつつ、新幹線の高速化に貢献してきた」と説明したところ、皆がその貢献の大きさを実感するとともに、これからのモビリティについても花が咲きました。

このように当社の製品や技術は社会のさまざまなシーンで多くの人々の役に立っており、研究開発、製造、営業の現場はもちろん、スタッフ部門含めたすべての社員の仕事は必ず誰かの役に立っています。社員一人ひとりがこうした「つながり」を意識して働くことによって、個々のモチベーションが高まるのはもちろん、社員相互の理解と尊重が深まり、結果としてストレスなく働けるエンゲージメントの高い職場になるのではないかと考えています。

マーケットイン、プロダクトアウトの両面から「素材+α」の新ビジネス創出を加速させる

海洋プラスチックごみ問題の深刻化や、世界的なEVシフト、グローバルサウスなどの新興国の経済成長などを背景に、世界のアルミニウム需要が今後も中長期的に増大を続けることは間違いありません。統合後の積極投資により世界3極にわたる強力な供給体制を構築してきた当社グループにとって、さらなる成長へのチャンスが大きく広がりつつあります。
第3次中期経営計画の中間年度である2022年度は、売上高は過去最高を達成したものの、添加金属やエネルギーの価格高騰の影響で減益となりました。そこで当社は、構造改革による成果である外部環境の変化に迅速に対応できる力を発揮して、これらのコスト高騰分を製品価格に反映するサーチャージ制の価格体系を業界に先駆けて導入しました。2023年度以降、その効果が業績に反映されてくるはずです。また、構造改革によって「稼ぐ力」が着実に向上し、ROEやROICなどの財務指標も2030年の目標に対してインラインで推移するなど、その蓋然性は高まっていると捉えています。

2024年度からは第4次中期経営計画がスタートします。次期中期経営計画は「UACJ VISION 2030」の実現に向け、これまでの構造改革による成果を土台として、より挑戦的な施策・計画を打ち出していくつもりです。統合以降、当社では板事業を成長戦略の中核に据え、生産能力増強と収益力強化に注力してきましたが、今後は板事業以外の事業拡大と収益力強化にもより積極的に取り組んでいきます。例えば、これまでは当社にとっての成長市場として位置付けてこなかった欧州においても、近年の気候変動の影響を受けて空調機器の需要が拡大しつつあります。こうした市場変化を捉えて、今後、欧州におけるエアコン用フィン材や押出材などの事業を強化していく方針です。このように次期中期経営計画では、環境変化に対応して、成長市場・成長分野の内容を柔軟に見直していくとともに、研究開発力をベースに「板」「押出」「箔」「鋳鍛」「自動車部品」「加工品」という6つの多彩な事業を展開するUACJの強みを最大限に活用した事業戦略を追求していきます。

こうした事業戦略を推進していくうえで欠かせないのが「素材+α」の領域の拡大です。お客様の要求に応えて素材加工を行う“素材屋”を超えて、素材に+αの価値を加えた新しい製品やソリューションを提供する“超素材屋”へと脱皮することは、当社の企業価値向上に向けた中長期的課題でもあります。

この「素材+α」の具現化を目指し、当社では、これまでもグループ横断型のマーケティング機能の強化に取り組んできました。その結果、例えば「鋳鍛」で製造した素材をそのままお客様に提供するのではなく、「加工品」で最終製品に近い状態に仕上げて納品する新ビジネスが実現しました。これにより、お客様は生産工程のリードタイムを短縮でき、当社にとっても利益率が高まり、環境面でも切粉のリサイクルが容易になるなど多くのメリットが生まれます。さらに、近年では若手社員のアイデアがきっかけになって、「水の架け橋」「origami™+work」「開封検知箔」「水用心」など、アルミニウムの特性を活かして+αの付加価値を創出した新製品・新サービスが誕生しています。

こうした取り組みを、マーケットインとプロダクトアウトの双方向から加速させていくために、当社では、2023年4月、R&Dとマーケティング機能を融合した「マーケティング・技術本部」を発足させるとともに、新ビジネスの事業化を担う「新領域開発部」を経営戦略本部内に設置しました。この体制の下、当社では各事業で蓄積したコア技術やノウハウ、研究開発成果などを駆使して、+αの価値ある新製品・ソリューションをお客様に積極的に提案していきます。これによりアルミニウムの需要を喚起し、当社グループの新たな利益の源泉を創出していきます。

「UACJ VISION 2030」の目標を実現するためには、2030年までの折り返し地点となる次期中期経営計画の終了時までには、それぞれの施策を具現化しておく必要があります。そのために早期に具現化する施策、一定期間までに内容を固めておく施策など、それぞれの施策のロードマップを詳しく定め、実行をしっかりモニタリングしていく方針です。それによって 「UACJ VISION 2030」で描いた当社グループの将来像の解像度を上げ、実現の蓋然性を高めていきたいと考えています。

アルミニウムのサーキュラーエコノミーの“心臓”となって、持続可能な社会の実現に貢献していく

2022年11月、私は数名の役員とともに当社グループの祖業の地でもある足尾銅山と別子銅山を訪ねました。翌年の統合10周年を前に、グループのルーツを辿り、先人たちの歩み を振り返ってみたのです。これらの産業遺跡や歴史資料を目にして改めて実感したのは、江戸期から明治、大正、昭和と時代を超え、日本社会の発展に貢献し続けた先人の強い思いです。先人たちは、“進取の精神”を発揮して銅の採掘・製錬という当時の先端技術に挑み、経済・産業に欠かせない銅製品を供給し続けました。また、閉山から半世紀以上を経た現在も、植林などを通じた山の再生が続けられているのを見て、社会のため人々のために最後まで責任を果たそうという“利他の精神”が、今も息づいているのを学びました。

経営統合によりUACJという新しい会社になっても、こうした“進取の精神”や“利他の精神”はこれからもしっかりと受け継ぎ、確実に実践していかなければなりません。これらを現在の社会状況に合わせて表現したのが、前述した「素材の力を引き出す力で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」というグループ理念です。当社はこの理念の下、アルミニウムの特性を活かしてさまざまな社会問題の解決を目指しています。そのなかでも最大の社会的使命といえるのが、環境への貢献です。アルミニウムは、鉄などの素材に比べて軽量で熱伝導率が高くEVの軽量化や空調機器の高効率化に貢献するのはもちろん、何度でもほぼ永久的にリサイクルできるなど、持続可能な社会の実現に大きく貢献し得るポテンシャルを備えた素材だからです。

こうしたアルミニウムの環境価値を実際の社会価値に変えていくため、当社ではさまざまなステークホルダーと連携して「アルミニウム製品のサーキュラーエコノミー(循環型経済)」を構築し、自らがその“心臓”の役割を果たすことを宣言しました。その具現化に向けてすでに多くの取り組みを進めています。例えば、2022年9月、サントリー様、東洋製罐グループホールディングス様と協力して、世界初となるリサイクルアルミニウムを100%使用した缶ビールの製品化に貢献しました。東洋製罐グループホールディングス様とは、よりリサイクルの容易なアルミ缶の共同開発も進めています。また、使用済み飲料缶(UBC※4)の水平リサイクルを拡大すべく、アルミ缶リサイクル大手の山一金属様と合弁会社を設立し、UBCの溶解リサイクルシステムの構築に取り組んでいます。

サーキュラーエコノミーの拡大によるお客様価値の拡大

一方、環境性能に優れたアルミニウムをより多くのお客様に選んでいただくためのブランディングも強化しています。2021年から環境配慮型のアルミニウムブランドとして「UACJ SMART」を展開。2023年4月からはグリーン電力由来のアルミ新地金やクローズドループで回収された端材などをマスバランス方式で管理し、温室効果ガス排出量の第三者機関保証を添付した「UACJ SMARTマスバランス」を追加し、環境性能を重視するお客様の選択肢を広げました。また、自動車向けの板材ブランド「U-ALight®」を展開し、お客様との関係強化に努めた結果、EV車のボディーシートに50%リサイクル材を適用することや、主要メーカーのNew Scrap(車両等製造時のプレス端材など)に関するクローズドループリサイクル体制の構築を果たすことができました。さらにIT分野においても、当社が提供する100%リサイクル材やグリーン電力由来の新地金を採用した製品が続々と登場しています。

今後も製品のバリューチェーン全体に働きかけて、環境に配慮したアルミニウム材料の利用促進を加速させていきます。その一環として、最終消費者向けの新ブランドを立ち上げる予定です。「アルミニウムが環境にやさしい素材」であることを広く社会に認知させ、多くの企業に積極的にアルミニウムを選択してもらえるようにしたいと考えています。

こうした環境ポジティブな当社の姿勢は、ESG重視の投資家をはじめ多くのステークホルダーの皆様から高い評価と期待を博しています。アルミニウムの高付加価値化を図り、サーキュラーエコノミーを構築することが、当社の収益力強化と中長期的な企業価値向上につながり、現状は1.0を下回るPBRの改善にも結びつくものと確信しています。

当社グループは、創業以来受け継いできた“進取の精神”や“利他の精神”、そして経営統合を機に構築したグローバルな事業基盤を活かして、これからもアルミニウムの力で新たな価値を創出し、“軽やかな世界”の実現を目指します。そのために、私は社長として当社グループを成長の新時代へと突入させるべく、精一杯努力してまいります。そして、当社の企業価値を高め、ステークホルダーの皆様の期待に応えてまいりますので、今後もより一層のご支援を賜りますようお願い申しあげます。

※4 Used Beverage Can