指名・報酬諮問委員会 委員長メッセージ

音声で読み上げる

サクセッションプランを
主導し、新リーダーを選任
新たな経営体制とともに
ガバナンス改革を継続し
中長期的な企業価値向上へ

社外取締役(独立役員) 指名・報酬諮問委員会 委員長
池田 隆洋 三菱化学(株)※ 執行役員、ダイアケミカル(株)取締役社長、三菱レイヨン(株)取締役兼常務執行役員などを歴任。また三菱化学(株)では、インドネシアで事業展開に従事するなど、アジア・ASEAN地域の事業環境に精通。
※ 現 三菱ケミカル(株)

ガバナンス改革を通じて業務執行力やモニタリング機能を大幅に改善

私が社外取締役に就任した2018年、UACJは過去の大型投資の収益化の遅れや、米中貿易摩擦にともなう市況悪化などの影響を受け、厳しい構造改革を迫られていました。そのため取締役会でも、どのように構造改革を実行し、持続的成長・企業価値向上を実現していくかといった議論が中心となりました。

そうした構造改革の一環として、当社はコーポレート・ガバナンス体制の強化に取り組み、2020年度には取締役、執行役員の人数削減による意思決定の迅速化を図りました。その後も、役員報酬体系への株主総利回り(TSR)やSDGs評価指標の導入、マルス・クローバック条項の設定など、時代の要請を踏まえた改革を実行してきました。これら一連の継続的なガバナンス強化の結果、当社の業務執行力や取締役会の経営モニタリング機能は、2018年当時に比べて格段に改善され、構造改革における事業の選択と集中、投資回収の加速など、各施策の確実な実行につながったと考えています。2023年度からは日本の企業ではまだ珍しい社外取締役による相互評価制度もスタートさせるなど、引き続きガバナンス強化に向けて取り組んでいます。

このように当社がこの6年間にコーポレート・ガバナンスを大きく進化させることができたのは、取締役会に限らず、さまざまな場でボードメンバーが頻繁にコミュニケートし、建設的な議論を重ねてきたからでもあります。例えば、指名・報酬諮問委員会などの委員会は、一般的な委員会等設置会社より多く、毎月1回開かれ、しかも毎回2時間はじっくりと議論しています。

さらに会議以外の場での日常的なコミュニケーション、意見交換も頻繁に行われています。

今後の課題としては、グローバルなコミュニケーションの強化が挙げられます。以前、海外の事業会社のトップと話していて、取締役会で意思決定した事業方針の伝達が遅れているのを感じました。UACJが真のグローバル企業として成長していくためには、海外との情報共有を強化し、グループが目指すベクトルを一つにすることが重要です。

指名・報酬諮問委員会がサクセッションプランを主導し、客観性、透明性を重視したプロセスで新社長を選任

2024年4月、UACJは6年ぶりに社長交代を実施し、前・取締役 常務執行役員の田中信二氏が、新たな代表取締役 社長執行役員に就任しました。当社がサクセッションプラン( P.86)を開示したのが2019年ですから、今回がこのプランを適用した初の社長選任となりました。指名・報酬諮問委員会は、サクセッションプラン策定後、後継人材の候補者リストを作成するとともに、客観性、透明性、いつ後継者を決めるべきかという適時性などを念頭に置きながら議論を重ねてきました。そして後継候補との懇談を何回かに分けて実施し、仕事中の姿だけではわからない、それぞれの候補者の価値観やビジョン、性格、事業への想いなどを把握するように努めました。指名・報酬諮問委員会が、さらなる変革の推進役となる次期社長の要件として挙げたのは、「変化への適応力」「戦略立案能力」「実行力」「想像力」「傾聴力」「発信力」「多様性の尊重」などです。指名・報酬諮問委員会では、これらの観点から段階的に候補者を絞り込み、最終的に田中氏を新社長に選任。取締役会による認を経て、2024年4月1日、第4次中期経営計画がスタートするタイミングで新体制が発足しました。

田中社長は、これら多くの要件を満たした最適な候補者であり、指名・報酬諮問委員会、取締役会のメンバー全員が納得できる結果になったと考えています。例えば、田中社長は、2021年から2022年まで構造改革本部長を務めました。2019年10月からスタートした構造改革は、その後のコロナ禍によって計画に乖離が生じましたが、本部長の田中氏は、追加施策を講じて最終的に計画通りの改革効果を実現するなど、環境変化への対応力、実行力を示してくれました。また、入社後30年近く生産現場での経験があり、UATH(タイ)の生産立ち上げの際には担当役員として現地に赴任し、陣頭指揮を取りました。当時、私自身も現地を視察したのですが、現地社員とは言葉や仕事に対する考え方の違いなどで苦労しながらも、対話を通じて信頼関係を構築し、本格稼働の早期実現に向けて全力で取り組む姿が印象的でした。こうしたコミュニケーション力や多様性を尊重する姿勢は重要な資質であり、そして何よりも実際に海外でのビジネスを経験することは、グローバル企業の経営者として非常に重要な要素だと考えています。

さらに田中氏は社長就任までサステナビリティ推進本部長を務め、リサイクルに関する多くの知見や経験を有することも評価のポイントになりました。リサイクル推進は、当社の中長期的な成長戦略の大きな柱です。第4次中期経営計画においても、「素材+α」の付加価値創出に向けてリサイクルをはじめとする環境対応をどのように事業機会に結びつけるかが重要なテーマとなっています。社長選任の過程で、各候補に「あなたはUACJのために何ができるか?何をしたいか?」という重要な質問をしたのですが、それに対して田中氏からは「リサイクル」を軸とした将来のビジョンが明確に語られ、リサイクル推進への彼の強い意志を感じました。

田中社長が今後、リーダーシップを十分に発揮してリサイクルを中心とした新しいビジネスモデルを創出することができるか、そして第4次中期経営計画および長期経営ビジョン「UACJVISION 2030」の目標達成に向かって変革を推進していけるのか、取締役会でしっかりモニタリングしていく方針です。

もちろん、モニタリングと同時に、社外取締役として適切な助言や提言も行っていくつもりです。例えば、リサイクルを缶材から自動車、家電などさまざまな製品分野へと拡大するにあたっては、今後はアルミニウムだけでなく他の金属やプラスチックなど他業界との連携が必要になる可能性があります。また、国内だけでなくアジアや米国など世界各国の企業や行政機関との連携も重要です。当社の社外取締役の中には、私も含めて他業界でのビジネスや海外でのビジネスなどに従事した人が複数在籍しています。そうした経験やネットワークを活かして、戦略立案やパートナー形成の支援などができるのではないかと考えています。

  • ※ UACJ (Thailand) Co., Ltd.

将来を見据え、選任プロセスのさらなる改善や計画的な経営人材の育成に注力

当社のサクセッションプランでは、まず指名・報酬諮問委員会が新社長を選任し、その結果を取締役会が承認して正式決定する手順になっています。指名・報酬諮問委員会では7名中5名が、取締役会では半数が社外取締役で構成されているため、社長選任において私たち社外取締役の担う役割は極めて重大です。それだけに全員が大きな責任を自覚しつつ、それぞれの知見や経験を活かしながら選任の議論を進め、手続きもしっかり守ってきました。2023年度から始まった社外取締役の相互評価制度によって議論の真剣度がより一層高まったと感じます。これらの結果、プロセスとしてはまだ改善点はあるかもしれませんが、今回新たな社長を全会一致で選任できたことは、取り組んできたサクセッションプランが有効に機能した結果であったと自負しています。中身をさらに充実させるために、今後は次世代や次々世代の候補者に大きな仕事のチャンスを提供することや、社外で学ぶ機会を設けるなど、計画的な経営人材の育成に注力したいと考えています。

次回の社長選任が何年後になるか分かりませんが、その頃には取締役会や指名・報酬諮問委員会、事務局スタッフもメンバーが大きく入れ替わっているはずです。そこで現在、今回のプロセスやその運用方法などをもう一度整理しており、将来、より良いサクセッションを実現するための知見・ノウハウとして残していくつもりです。これまで築き上げてきたガバナンス改革の歩みを、次のUACJを担う世代へつなぐ責務を果たし、中長期的な企業価値向上に貢献していきたいと考えています。