指名・報酬諮問委員会 新旧委員長対談

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信頼関係に基づく 健全な緊張感あるボード体制が
コーポレートガバナンスの 実効性を高める

池田 隆洋
社外取締役(独立役員)
指名・報酬諮問委員会 委員
(前・委員長)

永田 亮子
社外取締役(独立役員)
指名・報酬諮問委員会 委員長

当社は2017年に指名・報酬諮問委員会を設置し、以来、同 委員会での議論を中心にコーポレート・ガバナンス改革を進めてきました。その新旧の委員長に当社のサクセッションプランの特徴や社外取締役の相互評価制度、今後の委員会運営などについて語り合っていただきました。

Q.2024年に6年ぶりの社長交代が実施されました。
当社のサクセッションプランにはどのような特徴があるのでしょうか?

池田
UACJは経営統合によって誕生した会社であり、それぞれの会社の伝統や文化が混在している側面があると思い ます。そんな統合会社のトップ選任にあたっては、従業員や 株主・投資家をはじめ各ステークホルダーに十分納得してもらえるよう、高いレベルの公平性や客観性、透明性が要求されます。今回、そうした点に最も留意してサクセッションプランの設計と運用にあたりました。
永田
公平性、客観性などを担保する上で大きな役割を担うのが私たち社外取締役です。当社の指名・報酬諮問委員会は、社内2名に対して社外が5名というメンバー構成になっているため、たとえ社長が自らの意中の人物を後継者にしようとしても、多数を占める社外取締役の賛同がなければ実現しません。社外の視点から強力なチェックが入るという点で優れたシステムだと思いますが、その分、社外取締役の責任は重大です。委員会での自分の意見、自分の一票が当社の将来を左右するわけであり、毎回、強い覚悟と緊張感を持って議論に臨んできました。
池田
当社では、サクセッションプランを公表して以降、将来 の経営人材プールの構築に取り組んできました。候補者選出にあたって私が重視してきたのは、競争の激しい事業の責任者を経験してきたか、海外事業の経験はあるか、そしてそれ らを含めたタフ・アサインメント、すなわち難易度の高い仕事に挑戦し、困難を乗り越えてきたかという点です。当社は、経営統合以降、米中貿易摩擦やコロナ禍など激しい環境変化に直面してきました。いわゆる“平時”と呼べる時期がなかった当社にとって、変革をリードできる有事のリーダーが求められるからです。
永田
そんな次世代リーダー候補のなかから委員会が最終的に選任したのが、タイ子会社の立ち上げや構造改革の実行などでリーダーシップを発揮してきた田中社長です。
池田
新執行陣に関する業績評価も委員会の重要な役割です。事業環境の先行きが不透明感を増すなかで、この中期経営計画を的確に推進し、最終年度の目標達成や長期経営ビジョン「UACJ VISION 2030」の実現に貢献しているかどうか、田中社長に対しても毎年評価を実施し、課題についてはきちんと指摘していきます。

Q. サクセッションプランに関する今後の課題があれば教えてください。

池田
候補者の人材プールについては、より早い段階でリストアップを開始し、社長交代の4~5年くらい前に有力候補を絞り込んでおくと、さらに実効性が高まるのではないかと考えています。そうすれば、この候補者には「海外事業を経験してもらおう」あるいは「経営企画の仕事も経験してもらおう」といった計画的なアサインメントができるからです。
永田
私も人材プールの構築には改善の余地があると感じています。将来の社長候補を選ぶわけですから、すべてのスキルフィールドで一定以上のレベルをクリアした人材に目が向くのは当然かもしれません。しかし、すべて及第点以上でなければ候補者になれないのでは、特定のフィールドで突き抜けた能力を持った人材が埋もれてしまう恐れがあります。サクセッションプランは、社長だけでなく当社の経営を担う次世代のリーダーを育成していくプロセスでもあります。将来どのような経営チームを構成すべきかという視点からも、多様な人材をプールしていくべきだと考えています。
池田
おっしゃるとおり、将来のマネジメントの多様性を担保するためにも、幅広い人材をプールしていくことは非常に重要だと思います。例えば、当社では経営統合以降、3代にわたって技術系のバックグラウンドを持つ人が社長に就任しています。決して意図的に技術系を選んだわけではないのですが、このまま技術系の社長だけが続いた場合、将来、経営の視点が技術面に偏っていく恐れもあります。ですから営業や財務、企画といった事務系のバックグラウンドを持つ人物のなかからも、有力な候補を選出し、将来の経営人材としてキャリアアップを支援していければと思います。
永田
マネジメントの多様性という点では、そうしたスキルやバックグラウンドに加え、ジェンダーの壁やジェネレーションの壁もまだ残っていると思います。今後の人材プールにおいては、男女を問わず若い世代を積極的に登用するなどして、壁を壊していくことも重要ではないでしょうか。

Q.社外取締役・監査役のサクセッションプランについてはいかがですか。

池田
社外取締役・監査役の後継者計画としては、候補者のロングリストを作成し、次に書類選考や打診を兼ねた面談を行って候補者を絞り込みます。そして最終段階で委員会が候補者と面談して指名の是非を判断し、取締役会と株主総会での決議を経て正式に就任する流れになっています。
永田
社外取締役・監査役の人材市場は、現在、とてもコンペティティブで、優れた人材には複数の会社からオファーが殺到する状況です。それだけに、当社のカルチャーにフィットし、当社が求める専門性や経験も兼ね備えた適任者を選ぶとなると、ターゲットとなる人材が限られますし、リストアップした後も決定までに時間がかかると他社に先を越されかねない難しさがあります。
池田
取締役会の多様性を確保する観点からは、現在のボードメンバーにはない領域の専門家や、女性、外国籍の人なども視野に入れて人選を進める必要もあります。ただし、そうした多様性の観点を加えると、現状では適任者がさらに限られ、人材の奪い合いが激しくなるのも事実ですね。
永田
おっしゃるとおりです。例えば、企業での役員経験のある女性をリストアップしようとすると、人事や広報のバックグラウンドを持つ人は多いのですが、それ以外の分野、特に技術系の女性の役員経験者は非常に少ないのが実態です。また、これからの時代、当社の取締役会においてもAIなどのデジタルテクノロジーに精通した人の必要性が一層増してくると思うのですが、AIやデジタルの専門家で経営感覚を備えた人材は、男女を問わず引く手あまたであり、招聘するのは簡単ではありません。
池田
そんな優秀な外部人材を確保できるよう、社外取締役や監査役についても適正かつ競争力ある報酬水準の検討が必要になります。

Q. UACJの特徴的なガバナンスの仕組みに「社外取締役の相互評価」がありますが、どんな狙いがあるのでしょうか。

池田
私たち社外取締役は当社の経営を監督する役割を担っていますが、その監督機能をきちんと果たすためには、社外取締役自身が期待される役割・責務を適切に遂行しているかをチェックする仕組みが必要です。当社では2016年度から取締役会の実効性評価を毎年実施しており、2020年度からは3年に一度、第三者評価も実施しています。これに加えて2023年度からは社外取締役による相互評価を開始しました。実効性評価+相互評価という仕組みにより、多面的かつ客観的な評価が可能になりました。
永田
事業環境の変化が激しい時代にあっては、社外取締役に求められる資質や能力も変わっていくはずです。指名時はきちんと適性があった社外取締役であっても、当社が置かれているステージが変化するなかで、今後も貢献していけるのかを定期的にチェックしていく仕組みはやはり必要だと思います。
池田
当社における取締役の任期は1年であり、毎年、株主総会で選任される仕組みとしています。新しい社外取締役が就任1年で会社の事業を完全に理解するのは難しいので、委員会としてもある程度の年数を継続してもらうことを想定しています。その上で、その人が適切に期待役割を果たしているか、継続してもらう必要があるかについて、委員会において審議しています。毎年の相互評価の結果は委員会で報告され、そうした社外取締役の再任・不再任の判断材料の一つとしても活用されます。
永田
初めて相互評価を経験したのは、着任して半年くらいの頃でした。最初は「ここまでやるのか」と驚きましたが、社外取締役同士でコメントし合うのはとても新鮮な体験であり、気づかされることも多かったですね。人は組織における立場が上がるほど、定量的指標での評価はあっても定性的な言葉によってフィードバックを受ける機会が少なくなるので、自分自身を省みる意味でも有意義な仕組みだと思います。
池田
毎回、厳しいコメントが多く、身が引き締まる思いをしますが、それによって健全な緊張関係を保てていると感じます。また、皆が遠慮なくコメントできるのは、相互の信頼関係がしっかり築けている証でもあるはずです。
永田
当社の場合、取締役会においても心理的安全性がしっかり担保されており、社内・社外を問わず誰もが言いたいことを自由に言える環境になっています。また、相互評価において「どれだけ気づきを与えたか」といった項目があるのですが、1年目よりも2年目の方が自分へのポジティブな評価が多かったりすると、きちんと貢献できているとわかって嬉しく感じます。
池田
当社がこの相互評価を始めて3年目になります。当社のガバナンスの実効性を担保する重要なシステムとして、これからも発展させていくべきだと思います。

Q. 2018年以降、継続的に役員報酬制度に見直し を加えていますが、報酬制度に対する委員会の 考え方を教えてください。

池田
社内役員の報酬制度は、事業の成功率を高めるための裏づけとなるものであり、戦略的に策定していくべきだと考えています。例えば、新しいことにチャレンジする動機づけとなる報酬の仕組みが必要です。さらに最近では人材の流動性が高まっており、新規事業参入などに必要な専門人材を外部から招聘するケースも増えるはずです。そうした外部の人材にとっても魅力的な報酬制度、報酬水準にしておかなければ、会社は成長できません。そこで2025年の改定では、基本報酬の水準を当社規模に見合った水準に引き上げるとともに、基本報酬に対する短期業績連動報酬・中長期株式報酬の比率を引き上げ、総報酬に占める変動報酬の割合を増加させました。
永田
将来的には変動報酬部分の振れ幅がもっと大きくてもいいと考えています。これほど事業環境の変化が激しい時代にあって、業績に関係なく多くの報酬を毎月得られるのなら、あえてリスクを取ってチャレンジする意欲が湧かなくなります。短期と中長期の割合などを含めてインセンティブとしてしっかりと機能するよう設計し、既得権化しないようにしていかなければならないと思います。
池田
従業員と異なり、役員は結果がすべてなので、アウトプットをフェアに評価してきちんと処遇することが重要です。ただし、当社のような装置産業の場合、現在取り組んでいる施策の成果が来年すぐに表れるとは限りません。そのため、短期の業績だけでなく、中長期的な業績・企業価値の向上を反映させた株式報酬などによるインセンティブが不可欠です。こうした観点のもと、委員会では客観性・透明性を重視し、外部のサーベイ会社の情報なども採り入れながら、当社の企業価値向上を促す上で最も適した役員報酬制度を追求しています。

Q. 最後に、前委員長の池田さんには新委員長への要望や期待を、永田さんには新委員長としての抱負をお聞かせください。

池田
指名・報酬諮問委員会のメンバーは、それぞれ豊富な知識や経験を持った方々ばかりです。そんなメンバーの知恵をどうしたらうまく引き出せるかを考えながら、全力で運営に取り組んできました。もちろん、永田さんは永田さんのやり方で委員会をまとめていっていただけたらと思います。
永田
池田さんの委員長としての取り組みは、この2年間、委員の一人として間近で拝見してきました。池田さんと同じようにはできませんが、委員会のファシリテーションに加え、自分なりに何かプラスアルファの貢献をしていけたらと考えています。
池田
今後、ぜひ議論していきたいのが、当社の課題でもある認知度向上、事業への理解促進です。これまでもTV-CMなどで積極的に広報活動をしてきたのですが、まだ知名度アップを図っている段階です。また、先ほどお話しした社外取締役の相互評価などの当社ならではのガバナンスの仕組みについては、指名・報酬諮問委員会を中心に当社のガバナンスの向上に向けて真剣に議論してきたことによるものであり、そうした姿勢を資本市場関係者にもっと知っていただく必要があると思います。
永田
ガバナンスというと「守り」のイメージが強いのですが、当社が中長期的な企業価値向上を図っていくには、「攻め」のガバナンスを展開していくことも重要です。例えば、次世代経営人材プールなどにおいても、候補人材と今後の当社の広報・ブランディング戦略などを議論し、従来の常識にとらわれない新しい発想や強い意欲を持った人材をどんどん登用していきたいと思います。
池田
おっしゃるとおり、発想の転換が重要です。役員報酬や従業員の給与について議論する際なども、まだ非鉄金属業界の枠のなかでの議論になりがちです。古い伝統的な枠組みにとらわれてばかりいては、新しい成長産業との人材獲得競争に勝てません。
永田
当社は、これから素材+αの付加価値戦略を展開し、B to B to Cといった新しい事業フィールドにも進出しようとしています。そのためには事業構造だけでなく、企業組織や企業文化そのものも進化させていく必要があります。さらにサーキュラーエコノミーの構築は地球レベルの課題ですし、今後は航空宇宙・防衛分野の事業を展開していくのですから、これまでの世界3極体制といった枠組みに収まることなく、成層圏に飛び出すくらいの広い視野と新しい発想を駆使してチャレンジしていくことが大事ではないかと思います。