社外取締役対談(サステナビリティ)
グローバル企業としての自覚をもとに、
経営とサステナビリティを高次元に融合


取締役(社外、非常勤)
赤羽 真紀子
さまざまな業種の多国籍企業のCSR担当として関連部署の立ち上げや活動を推進。現在は、CSRアジア(株)代表取締役として、豊富な知見と経験に基づきサステナビリティに関するコンサルティングに取り組む。
取締役(社外、非常勤)
池田 隆洋
三菱化学(株)※執行役員、ダイアケミカル(株)取締役社長、三菱レイヨン(株)※常務執行役員などを歴任。また三菱化学では、インドネシアで事業展開に従事するなど、アジア・ASEAN地域の事業環境に精通。
※ 現 三菱ケミカル(株)
現状への評価と課題UACJらしさと自分事化の追求を
- 池田
- 2018年に社外取締役に就任してから5年が経過しました。2019年10月から構造改革がスタートしましたが、この3年は新型コロナウイルス感染拡大によって事業環境が大きく変化しました。そうしたなかで現中期経営計画およびUACJ VISION 2030を策定したわけですが、UACJのあるべき姿に関する議論を通じて「サステナビリティ」を中核に据えるという方向性が明確になり、従来のCSRという活動レベルから、サステナビリティという経営レベルへと取り組みが進化したことは高く評価できると思います。
- 赤羽
- UACJとの関わりは、マテリアリティ特定を進めていた2020年4月からで、外部識者という立場から意見をお伝えしたのが最初でした。現在は社外取締役としてその進捗をモニタリングする立場となりましたが、池田さんは、当社のマテリアリティをどのように見ていらっしゃいますか?
- 池田
- 6つのうち、「製品の品質と責任」「労働安全衛生」は、ものづくりの会社の基盤を支える課題であり、「気候変動への対応」「人権への配慮」「多様性と機会均等」「人材育成」は社会的価値を創出するうえで不可欠なもの。重要課題が適切に網羅されていると言えますが、ややスローガン的に聞こえ、具体性に欠けている印象があります。
- 赤羽
- 確かに当時は「マテリアリティとは?」といった議論から始めたこともあり、今になってみると、十分にUACJらしさを打ち出すまでには至っていなかったかもしれません。サステナビリティ経営の実践には一部の部署や従業員だけではなく、一人ひとりが自分事として取り組むことが不可欠ですから、スローガンに留まることがないよう、日々の業務のなかでしっかりとコミュニケーションしていく必要があります。
アルミニウムのサーキュラーエコノミーの構築社会の共感を得ることが肝要
- 赤羽
- そのなかでも、2022年度から取り組みを開始した「アルミニウムのサーキュラーエコノミーの構築」は、まさに当社ならではの活動です。アルミニウムはリサイクル性が高く、海外では無限リサイクル(インフィニティリサイクル)を積極的に打ち出している同業社もあります。当社もアルミニウムの高リサイクル性や「使えば使うほどエコ」という側面を打ち出し、環境価値創造企業=UACJとして存在感を高めてほしいと取締役会などで話しています。
- 池田
- 私も大きな期待と関心をもって見ています。画期的で社会への貢献度が高い無限リサイクルを社内外に積極的に発信して、共感の輪をうねりにするぐらいの意気込みで取り組んでほしいですね。但し、せっかくの取り組みも世の中に広がらないと効果が限られてしまいますから、あらゆる世代にアルミニウムの環境価値をわかりやすいメッセージで発信してほしいですね。
- 赤羽
- メッセージ性は私も重要だと思います。さらに言えば、メッセージを信念をもって発信していくことが活動の推進力になります。私が所属していたスターバックスは、日本で店舗数が最も多いコーヒーチェーンになりましたが、進出当時は、紙コップでコーヒーを飲みながら街を歩くのは下品とされ、ビジネスは失敗するだろうと言われていました。そんななかでも従業員は、「新たなブランドを作ろう」という信念をもっていて、自分たちの世界観は格好いいんだということを一人ひとりが訴求していました。そうして約30年を経て、確固たるブランドを確立できたのです。当社もアルミニウムの価値を一人ひとりが自分の言葉でいきいきと社外に発信してほしいと思います。
- 池田
- 社外への発信はパートナーシップを強化するうえでも重要です。サーキュラーエコノミーの構築は、多くのパートナーとともに推進することでスケーラビリティが発揮されます。SDGsの目標 17で「パートナーシップで目標を達成しよう」とあるように、アルミニウム業界に留まらず、地球環境を守るという同じ思いがあれば、例えば国内外のプラスチックメーカーとの協業も有り得るでしょうし、大きな目標を達成するためには、それくらい思い切ったマインドチェンジも必要と考えており、当社がその中心になっていってほしいですね。
今後求められるサステナビリティ推進グローバル企業としての多様性を活かす
- 赤羽
- グローバル企業のサステナビリティ経営の注力点は多岐にわたりますが、私はどの企業も重視すべきテーマは労働安全衛生だと考えています。安全に働くことができることは世界共通の権利、人権であり、海外の大企業の経営レポートでは人権に多くの誌面が割かれています。一方、日本では労働安全衛生の確保が当然のこととされ、当たり前のようになっていますが、習慣の異なる海外従業員にまで徹底していくことは決して簡単なことではなく、企業としてしっかりと意識しながら責任を果たしていく必要があります。また、安全・安心という事業活動の基盤を確保したうえで、脱炭素、ネイチャーポジティブ、労働力確保などの社会課題とビジネスの接点を見出しながらサステナビリティ戦略を立案し、成長の原動力としてほしいですね。私も社外取締役の立場からそうした取り組みを積極的に提言し、監督、サポートしていきたいと思います。
- 池田
- 私が抱いている課題感は、グローバルな視点で特定したマテリアリティが従業員の行動変容にまでつながっていないのではないかということです。次期中期経営計画やUACJ VISION 2030の方向性に違和感はなく、マテリアリティの進捗にも期待していますが、グローバルな組織という箱を作ってもマテリアリティに該当する取り組みが具体的でなく、何をしていいのかわからないのではないでしょうか。赤羽さんも指摘されたようにサステナビリティをより確かなものにするためには、従業員が自分事としてとらえ、全員参加になることが重要です。とくに当社は、さまざまな企業が集まって成長してきた経緯から、人も文化も多様性を持っており、海外グループ拠点の従業員も含めて年々多国籍化しています。こうした多様性や多面性を活かして海外のステークホルダー、コミュニティにもっと積極的に関与することで、当社らしい取り組みを始めることができるのではないかと思っています。