人的資本の強化
基本的な考え方
当社が誕生して以来、人的資本への積極的な投資を通じて確固たる人的基盤の構築を図ってきました。特に「UACJウェイ」を体現する「基盤を支える人材」の充実と中長期戦略の実現を「牽引する人材」の増強を念頭としたさまざまな施策を展開しています。例えば、「エンゲージメント調査」では、毎年80%程度の回答率があり、そこで得られた調査結果を分析して次の人事施策に反映させているほか、過去に実施した諸施策の反映度や成果を調査結果として「見える化」し、グループ公募制度や360度評価、人事ローテーションのガイドライン策定など、さらなる制度の拡充に注力してきました。2023年度に実施したエンゲージメント調査では、「UACJウェイの実践度」の回答点数(5点満点)が3.42点から3.51点に増加、「人材育成の推進」や「魅力ある処遇の実現」などの項目でも前年度を上回る回答点数となるなど、人的資本充実への取り組みに対する成果が着実に現れています。
人的資本の価値創造プロセス
- ※1 グループ全体が対象
- ※2 単体が対象
- ※3 単体管理職が対象
- ※4 国内グループが対象
人材戦略プロジェクト
近年、少子高齢化にともなう労働人口の減少、人材の流動性拡大等、雇用環境の変化が著しいこと、さらにワークライフバランスやキャリアを重視する意識の高まりなど、働く人の価値観にも大きな変化が生じています。今や企業は働く人から選択を受ける存在であると自覚する必要があり、従業員にとって魅力ある組織風土を醸成し、いきいきと働くことのできる職場環境を整備することが求められています。
こうした背景を踏まえつつ、当社では、経営理念の実現や事業戦略の実行に必要十分な人材を適時に供給し続ける「人材力の強化(人材戦略)」、多様な個人の活躍と掛け合わせの集合体として組織力を高める「組織力の強化」、これらのための人事制度・育成制度の見直しや人材情報の可視化といった「仕組みの整備」の3つを課題として認識し、第4次中期経営計画期間において人的資本をさらに強化する計画を策定しました。
2021年度からスタートしている人材戦略プロジェクトは、時代の潮流に沿った人事制度改革や新しい視点の人材育成を行うことを中心に、人材を資本と捉えてその価値を最大限に引き出すことを目指しています。UACJウェイを体現できる人材を数多く輩出し、当社全体の持続的な成長と長期経営ビジョン「UACJ VISION 2030」(VISION 2030)の実現を目指しています。また、この人材戦略プロジェクトを推進するうえでは、各事業部門と人事部門間の連携・協力が欠かせないと考えています。各事業部門では、事業目標達成に求められる人材の要件を検討します。一方、人事部門は人材を“管理”する組織から一歩踏み出して人材を“支援”する組織に変革し、グループ横断の人的プラットフォームの整備や各事業部門における人材育成をサポートする役割を果たします。各事業部門と人事部門で抱える課題・希望を共有することで、最適な人材の配置や人材育成となるよう取り組みを進めます。
経営戦略と人材戦略の連携
人材戦略プロジェクトの実施ステップ
人材戦略プロジェクトは、VISION 2030達成までの10年間を中期経営計画と連動させる形でPhase1からPhase3の3段階に分け、Phaseごとに設定したテーマに取り組みながらステップアップしていく計画です。2021年度から2023年度の第3次中期経営計画と連動していたPhase1では、経営戦略と人材戦略の連携を進めるとともにVISION 2030の実現に向けた基盤づくりとして「求める人材像」の策定と各職場が抱えている人材の課題を洗い出すためのヒアリングを実施した後、人材マネジメントの変革に向けた各施策を検討してきました。またPhase1では、各事業部門と連携し、将来を見据えたマネージャー層のサクセッションプラン(後継者育成計画)に着手しています。事業部門をまたぐキャリア形成や育成支援など、リーダー人材の輩出に向け、取り組みをさらに強化しています。
Phase2がスタートする2024年度からは、人材戦略プロジェクトで進めてきた人材ポートフォリオをより実効性のあるものとし、Phase1で進めたさまざまな施策や基盤整備を活かし、変革への取り組みをさらに加速させていく予定です。変化の激しい事業環境のなかでも、VISION 2030の達成と従業員にとって魅力のある会社であり続けるために、人事制度の整備を進め、人材力・組織力のより一層の強化を図っていきます。
人的資本による財務影響の可視化
企業価値をいかに上げていくのか。当社は、6つの資本の活用による企業価値向上を「価値創造プロセス」で整理しました。人的資本への取り組みはその重要なファクターの1つであり、従業員の意識やさまざまな人事施策が、より高い財務パフォーマンス、企業価値向上に大きな影響をもたらすと考えています。
このような考えを背景として、当社は人的資本と財務パフォーマンス・企業価値向上の関連性を整理し、さらなる企業価値向上への施策立案やどのように活かしたら良いのかなどの試みを始めております。人事諸施策やダイバーシティの推進、健康経営の実践などの人的資本施策と、財務指標との相関関係を分析し、企業価値向上への人材戦略を策定する上で参考にすべきと考えています。現在、当社は従業員を対象にエンゲージメント調査を継続的に実施し、調査結果を事業運営・組織運営に活用しています。この結果を各部署に展開し、従業員の意識の変化を把握することで、人事諸施策による効果や、現状の課題を確認しています。これをさらに進化させ、人的資本と事業利益・資本効率向上の関連性から、人材戦略の立案・実施による人的資本の充実はどのような効果があったのか、どのようなことをすれば事業利益が増加し、資本効率が向上するのか、という観点から分析を試みています。人的資本と企業価値の繋がりを検証することで、将来的にROICを向上させ、最終的にはPBR向上に資する人的資本施策を追究していきたいと考えております。
この取り組みのなかで、2023年度より京都大学砂川伸幸研究室・山田和郎研究室に参画していただき、人的資本による財務数値への影響を分析するプロジェクトを一緒に進めています。初年度は名古屋製造所、R&Dセンター、および本社を対象として、これまで実施したエンゲージメント調査結果について、女性従業員比率などのダイバーシティに関する指標や、職場環境などの事項との関連性を分析。2024年度はより細分化した分析をするとともに、エンゲージメント調査内容の検討、そして下図に示すようなエンゲージメントスコアと資本効率との相関関係の整理を進める予定です。また、他の製造拠点に対象範囲も拡大していきます。それらを踏まえ、エンゲージメント調査と企業価値向上の相関関係を紐解くことで、人的資本の強化やWell-beingの実現につなげていきます。
人的資本による企業価値向上や財務数値への効果を整理することで、当社の人材が有する力を最大限に発揮できる、より効果的な人材戦略の立案・実施に役立てます。このプロジェクトを進めることは企業価値向上には大変重要であり、有効的であると考えています。