社外取締役対談(ガバナンス)

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10年の進化を礎にしつつ、
これからも不断の改革を進めていく

取締役(社外、非常勤)
永田 亮子 日本たばこ産業(株)にて執行役員、監査役としてグループ会社を含む経営に携わり、豊富な経験と経営に関する広範な視野を持つ。また、営業・マーケティングやサステナビリティについても造詣が深い。

取締役(社外、非常勤)
作宮 明夫 元オムロン(株)取締役副社長。社長指名諮問委員会などの各種諮問委員会で副委員長を務めるなど、非執行の取締役として経営のモニタリングに注力。またROICを指標とした経営で同社の企業価値向上に貢献。

UACJのコーポレートガバナンス社外取締役を含めた役員の再任・不再任プロセスを明確化

作宮
社外取締役に就任して5年経ちましたが、この間に当社のガバナンスは大きく進化しました。まず、就任当時に比べ取締役・執行役員の人数が大幅に削減され、意思決定や執行のスピードが高まりました。また、監督と執行の分離が進み、取締役、監査役、執行役員、それぞれの役割が一層明確になりました。そんなガバナンスの進化を体現しているのが指名・報酬諮問委員会です。委員長をはじめ過半数を社外取締役が占めており、毎回、経営を監督するという視点から掘り下げた議論が繰り広げられています。
永田
おっしゃる通り指名・報酬諮問委員会の議論はとても活発ですね。また取締役会も、議長を務める石原社長が多様な意見に広く耳を傾けようという姿勢で議論をコントロールしていますので、私たち社外取締役にとっても非常に発言しやすい会議体になっています。
作宮
もう一つ大きな進化と言えるのが、社長および取締役の再任・不再任に関する明確な基準ができたことです。従来から解任基準はあったのですが、それは法令違反などに関するものであり、職務執行を評価する基準ではありませんでした。そこで指名・報酬諮問委員会を中心に検討を進め、新たな基準を設定しました。これは社内役員だけでなく、それを監督する私たちもまた規律付けされるべきという観点から社外取締役についても評価し、再任・不再任の判断をするプロセスを設けました。
永田
社外取締役の再任・不再任についてもはっきりとした基準を設けて評価するという話はあまり聞きませんね。
作宮
ガバナンスコードには記載されているものの、まだできていない企業が多いようです。また、社外取締役選任の要件やプロセスを透明性・客観性の高いものにしようと議論し、スキルマトリックスと合わせて整理しました。この新しいプロセスを適用して初めて選ばれた社外取締役が、永田さんと赤羽さんだったのです。
永田
赤羽さんは海外の情報に精通しており、私にはガバナンスに携わった経験があります。また、赤羽さんも私も長年、CSR、サステナビリティ関連の仕事を経験してきました。それぞれのバックグラウンドを活かして当社に貢献していけるよう、一緒に議論を深めていきたいと思います。もちろん、事業環境が変化すれば社外取締役に求められる要件も変わってきますので、スキルマトリックスについては臨機応変に見直していく必要がありますね。
作宮
おっしゃる通りです。一方、社長の評価に関しては、財務面などの定量基準だけでなく定性的な基準も設けています。私たち社外取締役が社内における外部の眼となって定量・定性の両面から評価し、機関投資家や議決権行使会社からレッドカードを出される前に、イエローカードを出して注意を喚起する仕組みにしたいと考えています。

UACJの課題と期待サステナビリティを軸に新たな成長の可能性を追求する

永田
2022年度をもって構造改革を完了しましたが、作宮さんは改革の成果をどう評価されますか。
作宮
すべてが計画通りに進んだわけではありませんが、最終的に当初想定した改革効果を創出できたことは評価したいと思います。ただし、コロナ禍やウクライナ紛争、資材・材料費の高騰などの影響で効果が打ち消された部分もあり、社外からは目覚ましい成果が上がっていないように見えてしまうのも事実です。それだけに現状に満足することなく、これからも不断の構造改革を進めていかなければなりません。
永田
おっしゃる通りだと思います。
作宮
そのためには構造改革で「できなかったこと」の総括が重要です。例えば、ソリューション型のビジネスモデルへの転換は果たしてどこまでできたのか、UATHのローカライゼーションに関しても中間管理職として日本人を大量に派遣したやり方が適切だったのかなどを検証する必要があります。また、構造改革によって経営体質を改善する計画でしたが、現在もPBRは0.6といった低いレベルのままであり、その要因についても分析して対策を講じなければなりません。
永田
私も事業報告を聞いてPBRの低さは気になっていました。当社が、PBRを向上させるために、予実管理をしっかり実行し、ギリギリまでコスト効率の向上を追求してきたのは理解しています。しかし、メーカーとして不断の努力が必要なコスト効率の向上だけでなく、トップラインの伸長にも目を向けなければなりません。現在、お客様と値上げ交渉を粘り強く進めていますが、なかなか容易なことではありませんので、これからどうやってトップラインの伸長を追求していくかという議論が重要になります。
作宮
先ほど挙げたソリューション型のビジネスなども含め、新たな事業成長の可能性をどこに見つけていくかを検討していかなければなりません。
永田
当社の大きな伸びしろは、サステナビリティの領域にあるのではないでしょうか。
作宮
同感です。2019年に政府がカーボンニュートラルを宣言しましたが、当時から私は、当社にとって環境への対応はリスク管理としてでなく、経営理念と結びつけて推進すべきと提言してきました。アルミニウムはその軽やかさやリサイクル性能によって環境負荷の低減に大きく貢献できる素材です。ですから非財務指標として管理するだけでなく、財務指標にもたらすインパクトを考えながら、グループ全体で推進していく必要があるのです。
永田
私は自動車メーカーの社外取締役も務めていますが、世界的なEV化の潮流も含めアルミニウムの活躍領域はさらに広がっていくと感じています。さらに自動車以外の分野でも大きな可能性があるはずです。今後、研究や技術開発などを駆使してこうした潮流を確実に捉え、サーキュラーエコノミーの具現化をはじめさまざまな成長のシナリオを描けるのではないかと期待しています。
作宮
私は就任以来、当社のガバナンス強化に注力してきたのですが、それがなかなか企業価値の向上につながらないことにじくじたる思いがあります。今後もどうすれば企業価値向上を実現できるかを問い続けながら、社外取締役として提言を続けていきたいと思います。
永田
私は当社で当たり前となっていることでも、違和感があれば積極的に質問・発言することで、世の中とのギャップをチューニングし、当社のガバナンス強化と企業価値向上に貢献していきたいと思います。